神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

私は泣かなかった。激しく取り乱すこともなかった。

その映像が作り物ではないことは、分かっていた。

これは本当のことなんだ。

何もかも、本当に、現実に起きたことなんだ。

それだけははっきりしていた。

自分の家族が皆殺しにされたのに、私はどうしてこんなに冷静でいられたのか。

私は冷血なんだろうか。薄情な女なのだろうか?

別に家族のことを嫌っていた訳じゃない。家族は私に失望していたけれど、嫌われていたとまでは思わない。

…それなのに、殺された。

私の家族…。…みんな…。

目の前にいる、クロティルダと名乗る天使に。

「…どうして?」

言うべきことが思いつかず、私はそう尋ねた。

理由を知りたかった。

何故私の家族を殺したのか。

家族を残虐に殺したのに、どうして私だけはこうして生きているのか…その理由を。

「どうしてなの…?」

「…お前が生贄に選ばれたからだ」

生贄。

さっきもそう言ってた。…生贄、って。

私が生贄…?どういうこと?

「じゃあ、家族が殺されたのは…私のせいだってこと?」

もしそうなら、私は家族に申し訳が、

「いや、それは違う。決してお前のせいではない」

…え?

「お前には何の責任もない。ただ、賽の目がお前を選んだだけだ。…強いてお前の落ち度を挙げるとしたら、それは人間に生まれてしまったこと。これだけだ」

「…私、好きで人間に生まれたんじゃないよ」

「知ってる」

生まれる前に、選択肢が与えられていたとしたら。

モグラでもカタツムリでも、別の生き物に生まれて良いよ、って言われてたら。

私だって…人間になんて…。

…いや、どうかな。

分からない。…人間以外に生まれたこと、ないし。

「だから、お前には何の責任もないと言っている。お前は何も悪くない」

「…じゃあ、どうして私なの?」

「先程も言った通りだ。賽の目がお前を選んだから」

賽の目…サイコロの目?

サイコロ…。

…そういえば私、サイコロが転がるような音を…聞いた、ような気が。

まさか…あれがそうだったって言うの?

「お前はこの世界の、そして今生きる全ての人類の生贄に捧げられる為に選ばれたんだ」

「…。…よく分からない」

多分、重要なことを話してくれてるんだろうけど。

私には、とても理解出来なかった。

「今は分からなくて構わない。いずれ、おのずと理解出来るだろう」

「…私の家族を殺したのは、どうして?」

「お前の帰る場所をなくす為だ。帰る場所がなければ、お前はもう逃げられない」

「…」

「案ずることはない。遅かれ早かれ、お前達の行く先は同じだ」

この時、私にはまだ分かっていなかった。

クロティルダが何の為に私をここに連れてきたのか。生贄って、一体何なのか。

ただ、自分の運命は、もう私の手を離れてしまった。

そのことだけは、はっきりと分かった。