神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

「…」

ふと気配を感じて目を覚ます。

外は日が昇り始めているようだったが、まだ薄暗かった。

それなのに、家の中は恐ろしく暗い…。…ような気がした。

…何?これは…。…一体何?

不意に、鼻を突くような、強い血の匂いを感じて。

驚いた私は、匂いのした方を…妹が寝ているはずの隣のベッドに、振り向こうとした。

しかし。

「…見るな」

誰かが、私の視界を遮るように立ち塞がった。

…。

…え。

「だ…。…だれ…?」

かろうじて、私は声を出して尋ねた。

何の気配もなかった。物音の一つもしなかった。

その人は、突然その場に生えてきたように、そこに「いた」。

「…すまない」

その人は質問に答える代わりに、私に謝った。

…何を謝るの?

この血の匂いは何?

家の中に漂っている…この異常な空気。ただならぬ気配は、一体何なの?

そして…この、強い血の匂いは。

「あなた…一体、何を、」

「…お前は何も悪くない」

え?

「だが、お前は賽の目に選ばれた。お前が…この世界の、生贄だ」

「な…に?どういう…」

「…今は分からなくとも良い。いずれ分かる」

驚きは感じていた。私は物凄く驚いていた。

だけど、恐怖は感じなかった。

そう。私は自分の運命を突きつけられてもなお…怖い、とは一度も思わなかったのだ。

きっとそれは…多分。

この人が私に向けているのは、敵意でも、憎しみでもない。

ただ、私に対する憐憫…。それだけだったから。

この日、こうして…最初に会った時から、ずっとそうだった。




「…今は、少し…眠れ」

そう言って。

その人は、私の額に指を当てた。

その瞬間、私はふっ、と意識が遠退いた。

あ…。…駄目、だ。

抗おうとしたけれど、身体が言うことを聞かなかった。

…目を閉じる、その瞬間。

床に広がった、赤い血溜まりが見えたような気がした。