神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

…二時間後。

窓の外から、溢れんばかりの朝日が射す頃。

私はようやく、ベッドから起き上がった。

もう泣いてはいなかった。

多分、涙が尽き果ててしまったんだろう。

…。

くちゃくちゃになってしまったパジャマを着替えて、髪を整えて。

私はバスルームに行って、丁寧に顔を洗った。

…涙の痕を隠す為に。

何度も鏡を確認して、目が赤くなってないのを確かめてから。

私は、何食わぬ顔をしてリビングに向かった。

リビングには、お母さんが座っていた。

「あら、ベルーシャ。おはよう」

お母さんは私を見て、明るく声をかけてきた。

つい数時間前まで、深刻に話し込んでいたとは思えない。

もう、とっくに気持ちを切り替えたんだろうね。

…だけど、私にはそんな器用なことは出来ないよ。

「…おはよう…」

かろうじてそう答えたけれど、声に覇気がないのが自分でもはっきり分かった。

「…お父さんは?」

リビングにいたのはお母さんだけで、お父さんの姿は見えなかった。

こんな朝から、また研究室に閉じこもっているのだろうか?

例の…新世代の神様、の研究をする為に?

「お父さんは、少し前に出かけたわ。…学校に」

「学校…?」

「あなたが転校する学校を探しに行ったのよ」

「…」

…そう。

やっぱり、本気なんだね。

私が無言で立ち尽くしているのを、驚いているからだと勘違いしたお母さんは。

「お父さんは、あなたに元気がないことを心配してるのよ。もちろん、母さんだって心配だわ」

「…そう…」

「だから、やっぱり学校を転校することにしたのよ。自分のレベルに合った学校が一番よ」

白々しい、とさえ思った。

昨日まで…私がいくら訴えても、「我儘言ってないで、今の学校に通いなさい」の一点張りだったのに。

突然そんな心変わりをしたのは、お父さんに説得されたからだ。

私が…神様に力を奪われたなんて「作り話」をするほどに追い詰められてるって。

「転校の手続きが出来たら、すぐに新しい学校に通えるからね」

「…うん」

「これで、あなたも自分のレベルに合った授業が受けられるわ。…もう大丈夫よ」

お母さんは優しい口調で、私を励ますようにそう言ってくれた。

…そう。

これでもう、「作り話をしなくても」大丈夫、って言いたいんだね。

昨夜の話を大事にしていなかったら、突然のお母さんの変わり身に、酷く驚いていたことだろう。

「…?どうしたの、ベルーシャ」

「え…?」

「嬉しくないの?…やっと転校出来るのに」

「…」

私が浮かない顔をしていることに、ようやくお母さんも気づいたようだった。

…そうだね。

昨夜の話を立ち聞きさえしていなかったら…。きっと、手放しで喜んでいただろう。

でも、今の私には。

転校しても良いという言葉は、「もうあなたに期待するのはやめた」と突きつけられているのと同じように感じられた。

…実際、その通りなんだろう。

優しい顔をしているけれど、私を心配してくれているような言葉をかけてくれるけど。

…心の中では、私に失望している。

だったらいっそ、はっきり言ってくれる方が良かった。

「あなたには失望した」って。…はっきりと、そう。