神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

どうしようか、と少し迷った。

お父さんとお母さんが話してるなら、盗み聞きしちゃ駄目だよね…?

わざわざこんな時間に話してるんだから、きっと私達子供には、聞かれたくないことなんだろう。

それに声音からして…何だか深刻な話をしてるようだし。

やっぱり自分の部屋に戻ろう、と思ったけれど。

「…ベルーシャは、どうしてこうなっちゃったのかしら」

自分の名前が聞こえて、私は思わず足を止めた。

お母さんは、確かに私の名前を口にした。

「こんなことなら、最初からDランク適性だったら良かったのに…」

「それは…。…でも、ベルーシャには何の責任もないし…。…やっぱり、学校を変えるべきなんだ」

「だけど…。折角、先生方のご厚意で、今の学校に残してもらっているのに…」

…間違いなかった。

お父さんとお母さんは…私のことを話し合っている。

聞いてはいけない。聞かない方が良い。

それは分かっているけれど、私はその場に縫い付けられたように動けなくなった。

「それが駄目なんだよ。ベルーシャにとっては負担なんだ」

「…だけど…」

「その挙げ句、自分の力を神様が持っていった、なんて言ってるんだぞ」

…!

…つい3時間前に相談したことを、お父さんは話題に出していた。

「そんな作り話を自分に言い聞かせて、自分を慰めるしかないんだ。あの子がどれほど辛い思いをしてるか分かるだろ?」

「…そう…ね」

私は、頭を殴られたようなショックを受けた。

お父さんは私の訴えを、「作り話」だと思っているんだ。

信じるって言ってくれたのに…。

「だけど…もったいないわ」

「俺だってそう思う。でも、今一番大切なのはベルーシャの気持ちだ。ベルーシャの心を守ってやらないと…」

「…」

お父さんは、私の心を守ってくれようとしていた。

だけど、今、お父さんの言葉は私の心を容赦なく、ぐさぐさと突き刺していた。

「大丈夫だ。Dランクの魔導師だって、彼らなりに一生懸命頑張って、支え合って生きてるじゃないか」

お父さんはお母さんに言い聞かせるように、優しくそう言った。

「俺達の研究所にも、Dランクの魔導師はいる。でも、彼らだって頑張ってるだろ?」

「それは…。えぇ、分かってるわ。だけど…」

「いくらSランクの学校に通わせて、Sランクの授業を受けさせても、ベルーシャはDランク適性なんだ。Sランクに戻る訳じゃない」

「…」

「現実を受け入れないと」

現実。

その現実は、両親にとっても、私にとっても酷く残酷で、無情だった。

「…分かってるよ。母さんはベルーシャに、俺達の研究を継いで欲しかったんだろ?」

…え。

「それは…。…えぇ。ずっとそう思ってたわ…。あの子がお腹にいる時…Sランク適性があるって診断された時から…」

…それは初耳だった。

そうだったんだ。お母さんは、私に自分達の研究を継がせようと。

あの…肉の塊みたいな「新世代の神様」を創り出す研究を。

それで…Dランク適性の烙印を押された後も、今の学校に通うように、私に言い聞かせた。

あれは…全て、私に研究を継いで欲しかったから。

その為に、最高の教育を受けて欲しかったんだ。