神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

逃げ帰るように、私は自宅に戻った。

「…ただいま…」

「あらっ…ベルーシャ。お帰りなさい」

家にいたお母さんは、私の姿を見て驚いた。

「どうしたの?今日は居残りじゃなかったの」

不合格に違いない私が、居残りもせず、早く帰ってくるなんて。

お母さんにとっては、驚くべきことなのだ。

そうだよね。

普通に宿題をしてたら、私が合格点に達するはずがないもの。

「うん…。今日は…」

「そう。良かったわね」

良くない。…全然良くないよ。

これなら、潔く居残りをしていた方がずっと良かったのに…。

「それじゃ、今日も頑張って宿題しないとね」

宿題はするけど。でも、その前に…。

「…ねぇ、お母さん」

「?なぁに」

「私…やっぱり、学校…」

「…?学校が何?」

…少し言い淀んで、そして意を決して顔を上げた。

「私…学校、転校したい…」

「…」

あの男子生徒の言う通りだ。

私は本来、あの学校にはいてはいけない存在なのだ。

私は…Dランク適性の、出来損ないなんだから。

「宿題も…授業にもついていけない。いたたまれなくて…学校、行くのが辛いよ」

軽蔑されるのも嫌だし、それ以上に…同情されるのはもっと嫌だ。

これ以上、学校に行くのを嫌いになりたくない。

自分が本来、いるべき場所に戻りたかった。

「私と同じ…Dランクの生徒がいる学校に行きたい。…ねぇ、お願い」

本来は、それが正しい在り方じゃない。

「これ以上あの学校にいても…私は…」

「…そうね、それは分かるけど」

と、お母さんは硬い声で答えた。

何が分かるって言うの?

誰も私と同じ目に遭ったことなんてない。誰も私の気持ちなんて、本当の意味で理解することは出来ないのに。

「そんなこと言っちゃ駄目よ。あなたは今、先生方のご厚意で、あの学校に通わせてもらってるんだから」

…また、それだ。

「◯◯させてもらってる」とか、「◯◯してあげる」とか。

そんな言葉は、もうまっぴらだ。

それに、そんなものは厚意でも何でもない。

ただの同情だ。

「それに、今更Dランクの学校なんて…」

「…何がいけないの?」

「だって…。学校の設備も良くないし…授業の質も悪いし…。通ってる生徒も…ちょっと…ねぇ…」

私のお父さんとお母さんは、Aランクの学校だった。

Sランクの私の学校ほどじゃないけど、下位ランクの学校の生徒のことを、かなり見下している。

お母さんでさえも、Dランクの学校のことを、心の中で馬鹿にしていた。

出来れば、そんなところに娘を通わせたくない、と。

だけどお母さん、そこが本来、私のいるべき場所なんだよ。

私も同じ、Dランクの魔導適性なんだから。

「今から格段にレベルを下げるより、今のまま、Sランクの生徒と一緒に、Sランクの授業を受けた方が、あなたの為になると思うのよ」

「…お母さん…」

それって、本当に私の為なの?

…自分の為、じゃなくて?