神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

宿題と言われて、私は思い出した。

「あぁ…『雷魔法応用』の宿題だっけ…」

「うん、そう。問題集の25ページから30ページを解いてくるように、って言われたでしょ?」

「うん…」

魔導学校では、一般知識の授業よりも、魔導理論の授業の方が遥かに優先されている。

ここはSランクの生徒の専門学校だから、余計に。

当然、宿題もたくさん出される。

子供なら誰にとってもそうだと思うけど、私にとって宿題は、とても辛いものだった。

だって…。

「分かるところまでは解いたけど…。全部は、さすがに…」

「そっかぁ。まぁ、今回のはちょっと難しかったから」

…私が宿題を全部解けなかったのは、ただ問題が難しいから、という理由だけじゃない。

「それなら、また私のを見せてあげるよ」

と言って。

女子生徒は、自分の宿題のノートを私に差し出した。

…まただ。

「ほら、今のうちに写して」

「…でも…」

他人の宿題を写させてもらう。

言うまでもないが、これはいけないことだ。

もしバレたら、こっぴどく怒られるに違いない。

…私以外は。

「良いって、気にしないで。いつものことてしょ?」

「…」

彼女は心から、善意で、私に宿題を写させてくれようとしている。

この学校では、もし宿題の出来が悪かったら、叱られ、居残りで復習させられる。

Sランクの学校に在籍していながら、Dランクの頭しかない私に、宿題を毎日、全部解くなんて出来ない。

従って、私は毎日のように居残りをさせられなければならなかっただろう。

だけど、そうなっていないのは。

こうして、クラスメイトが私を助けてくれるからだ。

クラスメイトは私に、自分の宿題のノートを見せてくれた。

これを写すと良い、と言って。

この行為は、単なる善意の押し付けではない。嫌味のつもりでもない。

クラスメイト達は、「優れた魔導師は他者に寛容であらなければならない」という校訓に従っているだけだ。

私の能力じゃ、とてもじゃないけど宿題を全部解くなんて出来ない。

クラスメイトはそのことを知っているから、こうしていつも、私を手助けしてくれる。

宿題を写させて、私が居残りを回避出来るように。

先生達も、そのことを知っている。

クラスメイトが私に宿題を写させていることを知っているが、私の事情を鑑みて、見て見ぬ振りをしてくれているのだ。

授業で質問をされる時も、私には決して難しい質問はしない。

私だけは、どんなに下手でも、どんなに馬鹿でも、愚鈍でも、気付かない振りをしてくれる。

私だけ…特別扱いされるのが当たり前になっている。

その気遣いは、本当に有り難かったけど。

「ほら、早く。遠慮しないで」

「…ありがとう」

私は口元だけ微笑みながら、そのノートを受け取った。

友達のノートを受け取って、それを黙々と書き写している時。

先生やクラスメイトに気遣われ、特別扱いをされる時。

私は、言いようのない後ろめたさと、居心地の悪さを感じていた。