神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

それどころか。

お母さんはその日の夜、お父さんに、私が言ったことを話して伝えた。

「パパ、この子ったらね、今日こんなことを言い出して…」

と、私が「神様に助けてもらった」発言をしたことを告げ口した。

「へぇ…そうだったのか」

お父さんは、お母さんと違って頭ごなしに否定することはなかった。

「パパからも叱ってやって。こんな恥ずかしいこと、もし外で言ったらみんなの笑い者よ」

神様の存在を認め、称えるようなことを外で言えば、笑われる。

そんな世の中だったのだ。この世界は。

しかし、お父さんはお母さんよりも、ずっと寛容だった。

「まぁ、良いじゃないか。想像力豊かで」

「パパったら…。それで済ませちゃ駄目でしょ」

「神様でも、魔法でも、何でも良いさ。今はこうして、元気なんだから」

本人の頑張りのお陰だろうと、お医者さんの懸命な努力の成果だろうと、神様の気まぐれだろうと。

結果的に私は助かったのだから、それで良い。

お父さんはそういう意見だった。

「あのね、パパ。そういう問題じゃ…」

「それよりも、お腹の子はどうだった?今日、出生前適性診断を受けたんだろう?」

と、お父さんは露骨に話題を変えた。

お腹の子。

そう、今お母さんのお腹には、赤ん坊がいるのだ。

我が家で3人目となる子供。

お母さんは今日、その赤ん坊の出生前適性診断を受けてきたそうだ。

この診断は、全ての妊婦の義務である。

お腹の子に魔導適性があるかどうかを、生まれる前に調べるのだ。

これから生まれてくる子供に、魔導適性があるかどうか。

これはとても大切なことである。

お母さんはその質問に、先程まで不機嫌だったことも忘れて、笑顔で答えた。

「えぇ。受けてきたわ」

「どうだった?」

「大丈夫。陽性だったわ」

陽性。

つまり、お腹の子は魔導適性あり、と診断されたのだ。

「そうか。それは良かった」

お父さんは、ホッと胸を撫で下ろしたようだった。

…良かったね。

これで、お腹の子は無事に生まれてくることが出来る。

この診断が、もし陰性だったら…その子は生まれてくることが出来ない。

魔導適性診断で陰性が出たら、その子はその時点で堕胎される。

魔導適性のない子供は、この世に生まれてくることは許されないのだ。

…え?可哀想?

誰もそんなことは思わないよ。

魔導適性もないのに、この世に生まれてきてしまうことの方が、よっぽど可哀想だよ。

その子が男の子でも女の子でも、腕がなくても、耳が聞こえなくても、口が利けなくても。

それでも魔導適性さえあるなら。魔法が使えるのなら、その子は生まれてくる価値がある。

だけど、どんなに立派な家庭に生まれて、どんなに才能に恵まれた子であっても。

魔導適性がないならば、魔法が使えないならば、その子は生まれてきてはいけない。

魔導科学至上主義の現代社会においては、それは当然の「常識」だった。

だからこそ、生まれる前の適性診断が義務化されたのだ。

これは種の選別ではない。

魔法も使えないのに、無責任にこの世に誕生させるくらいなら。

最初から生まれない方が、その子にとってはずっと幸せだ。

そんな風に考えられていた。

「しかも、この子はSランクの適性だそうよ」

お母さんは、お腹を撫でながら嬉しそうに言った。