神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

その後、私はこれまで苦戦していたのが嘘のように、順調に回復していった。

一週間足らずで、ベッドから起き上がれるようになり。

二週間足らずで、病院の中を歩いたり、ご飯を食べられるようになり。

三週間の後には、無事に小児科病棟を退院し、家に帰った。

私はすっかり元気になって、その後は病気も怪我も、全然しなかった。

健康体そのもの。

私の著しい回復に、両親も、病院の先生も驚いていた。

「よく頑張ったね」って、みんなが言ってくれた。

よく諦めずに、頑張って帰ってきた、と。

だけど、それは間違いだった。

頑張ったのは私じゃない。あのお兄さんだ。

私は諦めようとしていたのだ。あっち側に…赤い光の方に行こうとしていた。

それをお兄さんが引き留めて、光の方に返してくれた。

あの時は分からなかった。

だけど、あのお兄さんが…私を助けてくれたあの存在が、きっと、神様だったのだろう。

神様が、私を助けてくれた。

私がもう少し大きくなってから、当時のことを思い出して、お母さんにそう言うと。

お母さんは驚いて、そして私を諭し始めた。

「違うわ。あなたが助かったのは神様じゃなくて、あなた自身の強さと、そして病院の医療魔導師の方々のお陰よ」

お母さんは、何処までも現実的だった。

だけど、これはお母さんに限った話じゃない。

魔導至上主義の現代社会において、神様の存在なんて迷信以外の何物でもない。

全ては人の力。人の知恵の賜物なのだから。

「神様なんて何もしてないわ。むしろ、神はあなたを連れ去ろうとしていたのよ」

お母さんにとって、神様なんて死神と同じだった。

自然の摂理なんて戯言で、人の命を奪おうとする傲慢な存在。それが神様。

私が助かったのが、そんな身勝手な神のお陰だなんて、お母さんは絶対に信じなかった。

…だけど。

「…ううん。神様だったんだよ」

私は、頑なにそう主張した。

そうとしか考えられない。

私は諦めようとしたのに、そんな私の前に現れた。

あの人は、あのお兄さんはきっと、神様が私に遣わせてくれた、天使みたいな存在なのだ。

「神様が助けてくれたの。だから、私は帰ってこられたんだよ」

「それは違うわ。神は人類の敵よ。何もしてくれないわ」

…そんなことはない。

私は「そんなことはない」と思っているけど、当時の現代社会の考えでは。

お母さんのように、現実的な考え方が一般的だった。

「そんなこと、他所で言っちゃ駄目よ。笑われるか、頭がおかしくなったって言われるから」

「…」

そう言って、お母さんは私を窘めた。

更に。

「お姉ちゃんったら、神様が助けてくれたなんて、何変なこと言ってるの?」

私の妹も、馬鹿にしたように笑っていた。

妹は、私と三つ違い。

そして私よりも、ずっと優秀な魔導師の卵だった。

「…」

自分を助けてくれた神の存在を否定され、私はショックだった。

賛同してくれなくても、「良かったわね」くらい言ってくれても良いのに。