神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

だけど、お兄さんはゆっくりと首を横に振った。

「ごめんな。…俺は一緒に行けないんだ」

「…?どうして…?」

「俺はまだ…向こうの存在じゃないから…」

「…??」

向こう?存在?…どういうこと?

訳が分からず、首を傾げていると。

「…ャ…!…シャ…!」

白い光の向こうから、必死に私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

この声は知っていた。

「お父さん…お母さん」

お父さんとお母さんが、私を呼んでいた。

「ほら。お前を呼んでる声がする」

「…うん」

「戻ってやれ。もう大丈夫だから」

お兄さんは笑っていた。

優しく微笑んでいた。

顔は見えなかったけど、確かに微笑んでいるのが分かった。

戻ろう、と思った。

両親に呼ばれたからではなく。

私自身が、あの場所が自分の居場所だと確信していたからだ。

…だけど。

「…お兄さん」

「ん?」

私は、この場に残していくお兄さんのことが気になった。

「お兄さんは、ここにいるの?…あっちに行くの?」

「いや…。…俺は、お前の傍にいるよ」

私の…傍に?

「今はまだ会えない。だけど、いつか必ず、また会える。その時は…もう、絶対に離れない。ずっと傍にいるよ」

「本当に…?本当に、また会える?」

「あぁ、約束する。だからお前は、それまで…」

お兄さんは、そっと私の額に手を触れた。

私は、不思議な光に包まれた。

「…?何をしたの?」

「大丈夫だ、怖がらなくて良い…。その時が来るまで、お前を守る為の魔法だよ」

怖くなんてなかった。

この人からは、優しさしか感じられなかったから。

「何も心配しなくて良い。…俺は、いつだってお前の傍にいるから」

…そっか。

それじゃあ…もう、大丈夫、だね。

「…さぁ、もう行け。ベルーシャ」

「…うん」

お兄さんは、私の名前を知っていた。

私は振り向かなかった。そのまま、光の方に駆けていった。

ようやく白い光の中に辿り着いて、その時初めて、私は振り向いた。

お兄さんは、駆けていく私の背中を見つめていた。

その顔が見えたような気がした。

あぁ、そうだ。

お兄さん…彼は…あの人は。

私の…とても、大切な…。





…眩しい光に包まれて。

次に目を開けると、そこには、涙を滲ませながら私の手を握り締めたお母さんと。

それから、その隣にはお父さんもいた。

私は、病院のベッドの上に眠らされていた。

あと一歩、すんでのところで。

私は長い峠を越え、一命を取り留めたのであった。