神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

それよりも、気になるのは。

「…何故、俺なんだ?」

「え?」

その「魔法」をかける相手は、俺でなくても良いはずだ。

何故、わざわざ俺に魔法をかける?

「だって…。…私は、クロティルダに覚えてて欲しいから」

「…何故だ?…復讐のつもりか?」

「まさか。私はクロティルダを恨んだことは一度もないよ」

…そうか。

「君を恨んでなんかいない。むしろ…。…君が傍にいてくれるから、私は何の未練もなく逝けるんだよ」

「…ベルーシャ」

「…私のこと、忘れないでね。クロティルダ」

そう言う「彼女」の声は、震えているように見えた。

怖くない、と彼女は言った。

彼女が怖いと言ったのは、忘れられることだけだ。

だから、俺は忘れない。

魔法をかけられたから、ではない。

そんな魔法なんて、この世の何処にもない。

ただ、俺が彼女を忘れられないから、ずっと覚えているだけだ。

彼女が生贄に捧げられ、その結果世界が二つに別たれ。

新しい「彼女」が生まれ、幾星霜の時が経てもなお。

俺は、俺が選んだ生贄の「彼女」を忘れていない。

これから先、どれほどの時を経ても。

俺は、俺という存在がこの世から消えてしまうその瞬間まで、彼女のことを忘れない。

それは、忘れられることを怖がっていた彼女の為であり。

…そして、俺自身の為でもある。