神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

…つーか、こいつさ。

ベリクリーデが呼んだ時にしか来ないと思ってたけど、そういう訳でもないのか。

「…この暇人天使」

呼ばれてもないのに来るとは、厚かましい奴だよ。

「何やってんだ、こんなところで…」

マジで不法侵入者に間違えられるぞ。

イケメンだからって何でも許されると思うな。

イケメンでも天使でも、許されないことはある。

「…暇人…か」

「は?」

「…暇でいられたら良かったんだが…。…そろそろ、時間切れだ」

「…」

…一人で会話して、一人で納得するのやめてくれないかな。

何なんだ?なんか意味深なことばっか言いやがって。

「…おい、一人で喋ってんじゃねぇよ」

「…ここに何をしに来たんだ?」

はぁ?

「そりゃこっちの台詞だっての…。…俺は、バナナの水やりに来たんだよ」

片手にバケツ。片手にじょうろ。

バナナにはたくさんの水分が必要だから、バケツ一杯なみなみと水を満たしてきた。

「…水やり…。…育てるつもりなのか?」

「お前がここに植えたんだろうが」

責任持って、お前が育てろよ。

かと言って、ここに居座られても困るけどな。

「お前も、暇なら手伝えよ」

…と言うと。

「分かった」

クロティルダは、素直に水やりを手伝ってくれた。

…こういうとこ、意外と物分かり良いんだよな。

ベリクリーデと似てるって言うか…。あいつはただ、何も考えてないだけだと思うけど。

「…お前、嫌じゃないのか?」

「…何が?」

「いや…。天使ってもっと、偉そうなもんだと思ってたが…」

意外と普通に労働するんだよな。

草刈りの時も思ったけど。

「天使でも何でも、バナナの水やりくらいするだろう?」

「…ふーん…」

「…それ以上に、ジュリス・レティーナ。俺はお前に驚いている」

…は?

振り向くと。

クロティルダは、思った以上に真剣な顔でこちらを見つめていた。

「俺が何故、ここにいるのかと聞いたな。…それは我が姫の様子を見守る為でもあり。…そして、お前の器を見定める為でもあった」

「…何だと?」

…聞いてないぞ。そんなこと。

クロティルダの声は、いつになく真剣だった。

「俺が今日、最後にここに来たのも…自分の目が節穴だったと思いたくないからだ」

「…お前、何考えてる?」

「頼みがある。ジュリス・レティーナ」

…頼み?

…気がつくと、いつの間にか。

クロティルダは、その手に銀色の剣を握っていた。

草刈りの時に見た、例の蛇腹剣だった。