神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

天使がもっと、器の小さな連中だったなら。

こんな時、「人間に指図される筋合いはない」と激高するのだろうが。

クロティルダは、俺に何を言われても、怒る様子はなかった。

むしろ、その通りだと頷かんばかり。

「そうだな…。…あぁ、それは分かっている。誰よりも、俺が一番よく…」

「だったら、何でベリクリーデにつきまとうんだよ?」

正直迷惑なんだが?

俺の精神衛生上。

「俺は…俺は、ただ、彼女を…」

「…」

…と、何かを言いかけて、口をつぐみ。

「…ジュリス・レティーナ。お前こそ、何故ベリクリーデ・イシュテアのもとにいる?」

「は?」

こいつ、話をすり替えやがったぞ。

「俺の話をしてんじゃねぇ。お前の話を聞いてるんだぞ」

「答えてくれ」

横暴だな。さすがは天使。

なんか気の利いた答えを期待しているのか知らないが。

「別に特別な理由なんてねぇよ。こいつが、俺の今の相棒だからだ」

「その為に命を懸けられると?」

「あんたらみたいな気位の高い奴らは、すぐそれだな」

聞いてて呆れるよ。

大義の為に命を懸けられるか?自分の家族や友人よりも、主君に忠誠を誓えるか?

そんな質問に、何の意味があるのか。

口では何とでも言えるんだよ。

大抵そういう質問をされたら、「はい、命など惜しくありません」とか言うもんだ。

「いいえ、命を懸ける自信はありません」なんて言うものか。

だがな、口先で何と言っていようと、いざという時、本当に命を懸けなきゃいけない場面がやって来た時。

その者が宣言通り命を懸けるか、それとも逃げ出すかなんて、土壇場になってみなきゃ分からないものだ。

命の危機が来ると、誰だって本性を現すからな。

誰からも慕われる立派なリーダーが、土壇場になって部下を見捨てて逃げた、とか。

逆に、普段は臆病で馬鹿にされていた者が、いざという時は誰よりも肝が据わっていた、とか。

そういうことはいくらでもあるし、俺自身何度もそういう経験をしてきた。

「命を懸けるだの捨てるだの、難しいことは考えねぇ。俺はただ、その時に自分が正しいと思ったことをするだけだ」

「…それが、大義に反することでも?」

「知ったことかよ、大義なんて。それはあんたらお偉いさんが、勝手に決めたことだろ?人間には関係ない」

お前らの正義を押し付けられても困る。

「俺はこれまで、ベリクリーデと一緒に何度も修羅場を潜り抜けてきたし、きっとこれからもそうなるんだろう。俺に分かるのはそれだけだ」

この先の未来、俺達に何が待ち受けているのかは分からない。

俺に出来るのは、何が起こったとしても、その度に最善を尽くすこと。

その時自分に出来る、最善と思ったことをするだけだ。

例えそれが、後になって裏目に出たとしても。失敗だったとしても。間違っていたとしても。

その時考えられる最善を尽くした結果なら、後悔もないだろう。

失敗する度に落ち込んでちゃ、とっくに精神病んでるからな。

そう思うしかねぇよ。…どんなに辛くても。