神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

見事に、何の情報も得られなかったな。

さすがに、このまま手ぶらじゃ帰れないが…。

「ジュリス、あそこ」

「ん?」

201号室を後にしたベリクリーデは、廊下の一番奥…205号室を指差した。

そこには、205号室から出てこようとする若い男性が。

おっ…。

「行ってみよう、ベリクリーデ」

「うん」

俺達は、急いで205号室に向かった。

「あの、すみません!ちょっと!」

「え?はい?」

「もしかして、この205号室に住んでらっしゃる方ですか?」

「えぇ、そうですけど…」

やった。

4人目にして、ようやくまともに話が出来そうな人に出会えた。

「あの、丁度今挨拶回りしてたところなんです。自分、昨日204号室に引っ越してきたんです」

「あぁ、そうなんですか」

「これ、つまらないものですけど…どうぞ」

「あ、どうも。ご丁寧に」

俺は引っ越し挨拶用に用意した洗剤セットを、205号室の住人に渡した。

素晴らしい。ようやく、まともに会話出来る相手に巡り会えた。

この感動よ。

これなら、204号室の心霊現象についても聞くことが出来るかもしれない。

…しかし。

「あの、このアパートについて、ちょっとお聞きしたいことが、」

「すみません。ちょっと僕、今急いでまして」

え?

205号室の住人は、非常に焦ったような表情だった。

「挨拶までしてもらって申し訳ないんだけど、実は僕、出版社勤めで…普段はあまり、この部屋に住んでないんです」

「え、そうなんですか?」

「えぇ…。今日は、替えの服を取りに来ただけで…」

成程、それで新聞が何日分も、ポストに入れっぱなしに…。

出版社勤めは生活習慣乱れるって、よく言われるもんな。

「この後も、原稿を取りに行って、それから作家さんとの打ち合わせが…」

「そ、そうですか…」

「あっ、もうこんな時間。急がないと…。すみません、それじゃ」

「は、はい。忙しいところ、引き止めてしまって申し訳なかったです」

本当に忙しいのだろう。

205号室の住人は、着替えを入れたエコバッグを手に、慌ただしく階段を駆け下りていった。

「あーあ…。行っちゃった…」

「…行っちゃったな…」

…ようやく、まともに会話が出来る人に巡り会えたのに。

結局、何一つ有益な情報は得られなかった。

分かったことと言えば、お隣の203号室に住む住人の解説しているyourtubeチャンネルの名前だけ。

…何だったんだ。この時間。