神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

帰れストーカー、と言いたいところだが。

カエルを捕まえてきてくれた恩があるから、今日だけは勘弁しておいてやるよ。

「お前、しょっちゅう見に来てんな。暇なのか?」

だが、嫌味は言う。

それとこれとは話が別だよ。当然だろ?

しかし、この男に嫌味というものは通じない。

「あぁ。俺は、夜の間は裁定者の役目があるが、昼間は特にやることがないからな」

「…あ、そう…」

「気になって、姫の様子を見に来たんだ。…眠っているようだが」

ベリクリーデは、クロティルダがやって来たことも気づかず。

相変わらず間抜けな顔で、すぴーすぴーと寝ていた。

呑気なヤツだな…。

その寝顔を、クロティルダはじっと見つめ。

「間抜けだな」と言う代わりに、こう言った。

「…変わらないな。この寝顔」

…え。

「昔からずっと変わらない…」

「…何だよ。お前はベリクリーデの元カレかなんかか?」

「元カレって何だ?」

「…」

…辞書引いて調べてこい。

「昔から知ってんのか。会ったことがあるのか」

「今ここにいる彼女…ベリクリーデには、会ったことがなかった」

「じゃあ、お前はベリクリーデを誰と重ねてるんだ?」

前から奇妙なこと言ってたよな。

ベルーシャ…だっけ?

「お前が見てるのはベリクリーデじゃなくて、お前が重ねてるその『誰か』だろ」

「…」

クロティルダは、驚いたような顔でこちらを見つめた。

「…鋭いな」

「それくらい、見てれば分かるだろ。人間様の洞察力を舐めるなよ」

さすがの俺だって、これまでベリクリーデとクロティルダのやり取りを見てりゃ。

それなりに、察するものだってある。

「お前達天使は、人間を無意識に馬鹿にしてるのかもしれないけどな」

「そんなことはない。…俺は、人の強さというものも、弱さというものもよく知っているつもりだ」

…あっそ。

一体何を見て、何を聞いて、そう言えるのか。

「お前がベリクリーデをどう思ってるのかは知らないが、ベリクリーデはベリクリーデだ。お前が知ってる『誰か』じゃない」

同じ顔をしていても、同じ身体を共有していたとしても、その中身、そこに宿る人格は別物だ。

ベリクリーデとベリーシュが、まったくの別人であるのと同じだ。

ベリクリーデはベリクリーデなのであって、他の誰でもない。

そこを履き違えるな。

…え?天使相手に説教なんておこがましい?

知るか。

天使だろうと何だろうと、俺は自分の思ってることをはっきりと伝えさせてもらうぞ。