神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

ベリクリーデが、海に行きたいとせがむので。

俺は、ルーデュニア聖王国の港町を目指し、そこから海岸に向かった。

季節が季節なので、海水浴客は一人もいなかった。

海は穏やかで、小さな波が浜辺に打ち寄せられている。

非常に静かな海だが、ベリクリーデはそれでも大興奮だった。

「わーい。海〜!」

「あ、おい。はしゃぐなよ」

ベリクリーデは意気揚々と、砂浜をざくざくと歩いていった。

やがて、履き物が邪魔だと思ったのか。

その場で靴を脱ぎ、靴下も脱いで裸足になった。

「わーい。わさわさする。わさわさ〜」

素足で柔らかな砂浜を踏みつけて、その場で足踏みして、砂の感触を楽しんでいた。

あーあ…。…ったく…。危なかっかしい。

良いか、砂浜には色んな危ないものが落ちてるんだぞ。

尖った貝殻とか、ガラスの破片とか…。

迂闊に素足で歩いて、足を怪我するようなことになったら…。

しかし、ベリクリーデはそんな俺の心配など、全く気にしていないようで。

「ジュリス、見て見て。海だよ」

「あぁ…。…海だな」

ベリクリーデは、その場でくるくるしながら、砂浜をざくざく踏みつけていた。

…さながら、初めて海水浴に連れてきてもらった幼児だな。

ったく落ち着きがないったら…。

すると。

ベリクリーデが、砂浜の中に何かを発見した。

「あ、ジュリス。見て、あそこ。もぞもぞしてる」

「え?」

「何かな?」

「あ、こら。不用意に触るんじゃ…」

しかし、注意しても遅かった。

ベリクリーデは砂浜にしゃがみ込み、両手で、しゅばっ、と何かを掴んだ。

「見て、ジュリス。カニさん」

「ひぇっ…」

獲物を仕留めた飼い猫のごとく、ベリクリーデが得意気に俺に見せてくれたのは。

カニではなく、ヤドカリだった。

大量のヤドカリに襲われる、昨夜の悪夢を思い出し。

俺は、思わずドン引きしてしまった。

やめろって。今、ヤドカリは俺にとって天敵だ。

「カニじゃねーよ、それ…。…ヤドカリだ」

「そうなの?」

「…そうだよ…」

俺に見せるんじゃない。俺に。

「それよりベリクリーデ…。やっと目的地に着いたんだから、」

「そうだね。それじゃ、貝殻拾おう」

「は?」

「キラキラの貝殻、ないかな〜」

ベリクリーデは、好奇心いっぱいの顔で。

目を皿のようにして、砂浜にしゃがみ込んで、貝殻を探し始めた。

「くるくるの貝殻ないかな。くるくるの」

「…巻き貝のことか?」

「あ、見て見て、ジュリス。緑色の貝殻があるよ」

「それは貝殻じゃなくて、シーグラスだ。ガラスの破片だよ」

「見てジュリス。白いゴキブリがいる」

「…ゴキブリ言うな」

あれはフナムシだ。ゴキブリじゃない。

「待て待てー」

「あ、こら」

フナムシを追いかけ回すんじゃない。

ったく…目を離す隙もない。