神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

仕方がないので、202号室の住人とコンタクトを取るのは諦め。

「最後の頼みの綱は…ここだな」

二階の角の部屋。201号室だ。

今のところ、205号室からも、203号室からも、202号室からも、有益な情報は何一つ得られなかった。

手がかりゼロ。

今度こそ、何か情報が得られると良いのだが…。

俺は、201号室のチャイムを鳴らした。

…そのまま10秒ほど待機するが、誰も出てこない。

「…またお留守かな?」

「さぁ…もう一回…」

諦めず、もう一回。

すると、部屋の中からかすかな声が聞こえた。

「はーい、はいはい…。ちょっと待って」

お、中に誰かいるようだ。

そのまま、たっぷり1分くらい経って、ようやく。

ガチャッ、と部屋の扉が開いた。

「えっ…」

「おぉ、おぉ…よう来たよう来た」

201号室から出てきたのは、部屋の中で杖をついた、よぼよぼのお爺さん。

道理で、出てくるまでに時間がかかった訳だ。

でも、これは朗報だ。

このお爺さん、多分、長くこの部屋に住んでるんだろう。

それなら、204号室の事情も知っているかも、

「こんにちは、お爺さん。俺達は204号室に引っ越してきた、」

「しばらく見んうちに、大きくなったのー」

…はい?

「ジュリス、このお爺さん知り合い?」

「いや…初対面だが…」

それなのに、まるで久し振りに孫にでも会ったかのような台詞。

「この間までちっちゃい赤ん坊だったのに、あっという間にこんなに大きく…」

「いや、あの、お爺さん。俺達は初対面ですよ。隣の隣の部屋に引っ越してきたんで、引っ越しの挨拶に、」

「おぉー、そうですかそうですか。今夜の晩飯はイモ飯ですかな」

「…駄目だこりゃ」

会話が成立しない。

どうやら、このお爺さん…。

少々、あの…おボケになられてるようだな。

「おぉ、久し振りですなサチコさん。いやぁ見違えるように綺麗になった」

「サチコさん?私ベリクリーデだよ」

「ほうほう、ミチヨさんでしたか。今日のお昼はまだですか?」

「お昼はまだだよー」

見事に噛み合わない会話。…間違いない。

やっぱりその…おボケに、いや認知症。認知症だ。

これじゃ、とてもじゃないがまともに会話が出来そうにない。

何か聞き出せたとしても、このボケ具合じゃ、情報の信憑性は怪しいだろう。

…残念だが。

「…えーっと、お爺さん、これ引っ越し祝いです」

俺は、強引に引っ越し祝いを押し付けた。

「おぉ、これが評判の、△△堂の羊羹ですか」

「いや…ただの洗剤です」

「ありがとうございます。家宝の花瓶に入れて、大事に飾らせていただきますよ」

「…そりゃどうも…」

一度も会話が通じないまま、引っ越し祝いをプレゼントして。

何の情報も得られないまま、201号室を後にした。