神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

しかし。

「あのー、自分、204号室に引っ越してきた…」

「俺はぜってぇ出ていかないからな!テメェが勝手に産んだんだから、テメェが責任取りやがれ!」

…全然話が噛み合わないんだが?

しかも、何だ?この、反抗期の中学生みたいな台詞。

声からして、とてもじゃないが中学生とは思えない。

良い歳したおっさんの声だぞ、これは。

それなのに、さっきから子供みたいなことを叫んでいる。

明らかに、俺とベリクリーデのことを自分の母親だと思ってるよな?

反抗期あるあるだが、自分の母親を「ババア」呼ばわりはどうかと思うぞ。

「ちょっと…あの、自分はお宅のお母さんじゃなくて、引っ越しの挨拶に来た…」

「うるせぇ!さっさと出ていきやがれ、クソババア!」

「…」

段々イラッとしてきたんだが?

すると、ベリクリーデが。

ドアポストに、外から押し込んだらしい紙切れを、スッと引っ張った。

「ジュリス、お手紙」

「は?」

ベリクリーデの持っている紙切れは、新聞の中に挟んである広告用紙。

その広告の裏は白紙になっていて、その白紙の部分に文字が書いてあった。

どうやら、手紙であるらしい。

俺はベリクリーデと共に、チラシの裏に書かれた手紙を読んだ。

『〇〇ちゃんへ

元気ですか?

今月分の家賃と生活費を振り込みました。それから、〇〇ちゃんに言われた通り、ネットの買い物の代金も払っておきました。

それから、これはお母さんからの提案なんだけど。

たまには外に出て、お散歩でもしてみませんか?

無理はしなくて良いのよ。でも外の空気を吸ったら気分が良くなるかもしれないでしょ。

前向きに考えてみてください。お母さんより』

…だってさ。

…重っ…。

この一枚のチラシだけで、ずっしりと重い家庭の事情が伺い知れる。

「こいつ…」

この部屋の住人、良い歳してこの部屋に引きこもってるんだな?

生活費だの、家賃だの、自分の買い物の代金のを親に出させて。

なんてヤツだ。

「良い歳して親を困らせてないで、いい加減出てこい!」と怒鳴ってやりたいのは山々だったが。

今、アパートの同居人とトラブルを起こしたら、心霊現象の調査どころではなくなる。

「おーい。私もジュリスもお母さんじゃないよー。ベリクリーデとジュリスだよー。おばけの話聞かせてー」

ベリクリーデは、こんこん、とドアをノックしながら言ったが。

うるせぇ!と言わんばかりに、ドアを内側から蹴られた。

駄目だこりゃ。

「ベリクリーデ、もうやめとけ」

「…?良いの?」

「地面の中に引きこもってる蝉の幼虫に、外の世界の話をしても通じねぇよ」

人んちの家庭のことなんか、今は気にしてやる余裕はない。

引きこもりたいなら、一生その狭くて暗い部屋に引きこもっててくれ。