神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

俺は思わず、目が点になっていた。

でも、ルイーシュの腕を掴む手は緩めなかったぞ。

絶対逃がさん。

「…なんで?新人研修の監督は、シュニィちゃんがやってるんじゃ…」

「それが…その、私は…出来れば今日はこれから、お休みをいただきたいと思ってまして…」

え、休み?

「実は、今朝…アイナが熱を出してしまって」

「えっ」

アイナと言ったら…シュニィちゃんとアトラスの愛娘である。

直接会ったことはないけど、その名前と顔は、よーく知っている。

父親であるアトラスに、死ぬほど写真を見せられたからな。

まぁ、確かに可愛らしい女の子だよ。

頼むから、父親には似るなよ。母親に似てくれ。

…って、そんなことは別に良いんだよ。

「熱って…。…アイナちゃん、大丈夫なのか?」

可哀想に。

「大丈夫…だと思うんですけど…。昨日までは元気だったのに、今朝起きたら、ぐったりしてて…」

シュニィちゃんは心配そうに答えた。

あぁ、小さい子はよくあるよなぁ。

昨日まで元気だったのに、次の日、突然熱が出たり具合が悪くなったり…。

子供はよく風邪を引くものだと、知識としては分かっていても。

やはり親としては、我が子が熱を出してしんどそうにしていると、胸に来るものがあるのだろう。

「熱を測ってみたら…。39度近くあって…」

「おいおい…。高熱じゃないかよ」

ますます、可哀想に。

大丈夫か?それ。重症じゃん。

「はい…。ですから…これからアイナを連れて、かかりのつけの小児科に連れて行こうと思って…」

「…」

「アイナもしんどそうだから、どうしても…私がついていてあげたくて…」

「…あー…」

…成程。ようやく経緯が分かった。

「…確か、今…アトラスも出張中なんだよな…」

「…はい…。そうなんです」

アイナやシュニィやレグルスや、家族が体調を崩したら、黙っていない男、アトラス。

彼は今現在、遠方の都市に出張中である。

…タイミング悪いな。

こういう時、シュニィかアトラスのどっちか、手が空いた方が病院に連れていくんだろうが…。

生憎…今はシュニィしかいない。

すると、ルイーシュが横から口を出した。

「いやー…。アイナさんが高熱を出したと知ったら、走ってでも帰ってくると思いますけど?」

「うっ…」

…苦い思い出が蘇ったようだな、シュニィ。

何せアトラスは、妻の妊娠を知って、南方都市シャネオンから全力ダッシュで…って、もうこの話はいいな。

確かに、アトラスに「アイナが熱出したらしいよ」なんて言えば。

きっと目の色を変えて、仕事も何もかも放り出して、走ってアイナのもとに戻ってくるだろう。

多分、気づかないうちに、道中何人か人を吹っ飛ばしてると思うぞ。

「アトラスさんには知らせたくない…と言うか、知らない方が良いと思うので…。ここは、出来れば私が…」

「…そうだな…」

超絶納得した。

事情はもう、痛いほど、よーく分かった。

そりゃ、急にお休みを取るのも不可抗力ってもんよ。

しょうがないじゃん。子供が熱出したんだから。

これだから子持ちは、とか言わないでやってくれよ。…こればっかりは、お互い様なんだからな。