神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

…何はともあれ。

「えーと…。…シュニィちゃん、なんでいるの?」

改めて、俺は上司…シュニィちゃんに尋ねた。

彼女は俺やルイーシュ達と違って、聖魔騎士団の魔導隊舎に住み込んでいる訳ではない。

夫であるアトラスと、二人の子供達と共に、魔導隊舎の近くにあるルシェリート家の自宅に住んでいる。

普段、シュニィもアトラスも、基本的には食堂は使わず、その自宅で食事を摂っている。

故に、この食堂でシュニィの姿を見ることは、まず滅多にないはずだ。

しかも、こんな早朝から…。

それにシュニィ、今日は何だか…凄く焦ったような表情をしている、ような。

切羽詰まってるって言うか…。

「どうかしたのか…?」

「は、はい…。急なことで申し訳ないのですが、実は、キュレムさんとルイーシュさんにお願いしたいことがあるんです」

…お願いしたいこと?

「…おっと。それじゃ俺はこの辺で失礼を、」

何か厄介事の匂いを感じたのか、ルイーシュが立ち上がろうとした。

ので、

「…そうはさせるかっ!」

俺はすかさず、ルイーシュの腕をがっちりと掴んだ。

逃がさんぞ。

厄介事に巻き込まれるなら、お前も一緒だ。

「ちょっとキュレムさん。離してくださいよ。面倒なことを頼まれそうな気がしたから、空間魔法で避難を…」

「ふざけんな。死なば諸共だ!」

「…あの、話しても良いですか?」

戸惑うシュニィちゃん。

「あ、ごめん。どうぞどうぞ」

俺はルイーシュの腕を掴んだまま、シュニィちゃんの言葉を待った。

「本当に申し訳ないのですが…。…今日、新人研修の監督を代わってくれませんか?」

非常に申し訳なさそうな顔で、シュニィちゃんはそう頼んできた。

…えっと。

…新人研修?

「…どういうことだ?」

もうちょっと、詳しく聞かないことには分からん。

あとルイーシュ。露骨に「うげー…」みたいな顔をするんじゃない。

「今月、聖魔騎士団魔導部隊に入団したばかりの新人魔導師がいることは、お二人共ご存知ですよね?」

「え?あぁ…うん」

勿論。

いわゆる、新入社員である。

今月入ったばかりの…ピチピチの新卒。

初々しいよなぁ。

「僭越ながら私が、その方達の新人研修を監督させてもらっていたんですが…」

世間一般の会社で、往々にして行われているように。

聖魔騎士団でも、新入りの皆さんには、新人研修が行われている。

俺も受けたな、そういや…。もう、遥か昔の出来事のように思えるが。

確か、聖魔騎士団の新人研修は、二週間程度だったかな。

で、聖魔騎士団魔導部隊の新人研修は毎年、シュニィちゃんが監督している。

まぁ、適任なんじゃねぇの?

シュニィちゃん、優しいからな。

これが、ラミッドフルスの鬼教官…イーニシュフェルト魔導学院にいるイレースちゃんだったら。

聖魔騎士団魔導部隊の新入社員は、一人残らず、たった一日で全員が退職届を出すぞ。

…ぶるっ。

俺の上司はシュニィちゃんで良かった…と、改めて胸を撫で下ろす前に。

シュニィちゃんの頼み事、とやらの内容を聞かなくてはな。

「新人研修…。今、何日目なんだ?」

「丁度、一週間経ったところで…」

あー、折り返し地点なのな。

「今日も研修があるんですが…。彼らの指導を、キュレムさんとルイーシュさんに代わってもらえないかと思って…」

おずおず、と頼むシュニィちゃん。

…指導?新人の?

…俺とルイーシュが?