神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

ジュリスは、はぁ、と溜め息を一つつき。

「…良いから、気にせず食べなさい」

と、言った。

お母さんみたいだな。

「うん、分かったー。…ふぇっ?」

「?どうした?」

素直に頷いた…と思われたが、ベリクリーデちゃんが突然、手を止めた。

さっきまで美味しそうに食べていたのに、突如として顔をしかめ。

「ほね…」

「は?」

「たらの骨…。歯茎に刺さっちゃった…」

魚食べてる時あるある。

魚の骨が、歯茎に刺さる。

「あれって、地味に痛いよな…」

痛いだけでなく、腹立たしい。

口の中に入れられてもなお見せる、お魚さんの最後の抵抗である。

「ありますよねぇ。そうなるから俺、魚、嫌いなんですよ」

と、同意するルイーシュ。

いや、まぁ綺麗に食べれば、骨くらい何ともないのかもしれないけど。

俺、魚を綺麗に食べられない、残念な大人だから。

魚を上手に食べられる人って、ほんと尊敬するよ。

ベリクリーデちゃんも、気付かずに骨ごと、身を口に入れてしまったのだろう。

思わぬお魚さんの反逆を受けて、涙目である。

すると、それを見たジュリスが慌てて。

「ちょ、ベリクリーデ。骨を飲み込んだら駄目だぞ。ぺっしなさい。ぺっ」

「ふぇ〜…」

「ほら、ティッシュ」

ジュリスはポケットティッシュを取り出し、ベリクリーデちゃんに渡した。

…どうやら、魚の骨が喉に刺さる、という最上級の悲劇は免れたようだ。

「ったく…。ほら、それ貸してみろ。骨、取ってやるから」

「ありがとー、ジュリス」

更なる悲劇を回避する為、ジュリスはベリクリーデちゃんの銀だらのお皿を、自分の前に置き。

器用に箸を使って、骨を全部取ってやっていた。

…過保護…。

「…ジュリス、もう完全にオカンだな」

「ジュリスさん、魚の骨取るの上手いですね。俺のも取って欲しいくらいですよ」

「おめーも甘えんなよ、ルイーシュ…」

良い大人だぜ?俺達。

魚くらい、綺麗に…。…食べられたら苦労しないんだよなぁ。

ましてや、俺みたいに超がつくほどの不器用だと、魚を綺麗に食べるなんて夢のまた夢、



「キュレムさん、ルイーシュさんっ…。すみません、お食事中のところっ…!」

「へあっ!?」

突然、背後から話しかけられて。

俺は危うく、手に持っていた味噌汁のお椀を落っことすところだった。

あぶなっ。

ふざけんなよ。まだひとくちも飲んでないのに、落っことしてたまるか。

「誰だよ。いきなり話しかけ…!…て…」

驚き半分、怒り半分で勢いよく振り向くと。

そこにいた人物を見て、一気に語気が弱くなった。

「す、すみません…。私です」

「…あ…シュニィちゃんだったか…」

ごめん。上司だったわ。

今怒鳴りかけたのナシな。ナシナシ。

しかし、ルイーシュは面白がるようにして。

「キュレムさん、度胸ありますね。上司に向かって怒鳴りつけるとは…」

「ちょ、ナシだって言ったろ!」

「…言ってませんけど?」

…そうでした。