神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

「よし、分かった。自分、ピッチャーは向いてないんだわ」

キャッチャーではなく、クロティルダの後頭部にボールをクリーンヒットさせてしまった、ポンコツピッチャーキュレム。

「自分、バッターに転向するわ」

たった2球投げただけで、バッターに転向。

…最初からそうしろ。

「良いか、ルイーシュ。野球ってのはな…打つスポーツなんだよ。打てば勝ちなんだ」

「まぁ、そうですね」

「例え100点取られても構わない。101点取ればこっちの勝ちなんだ」

「仮に101点取って勝ったとしても、それまでに100点も取られてたら、それはもう負けたようなものですけどね」

そうだな。

しかしキュレムは、そんなルイーシュの正論には耳を貸さず。

木製のバットを持って、バッターボックスに立った。

「ってな訳で、打つぞ!よーし、かかってこいジュリス!」

…は?

「…なんで俺?」

「え?だって、ルイーシュはキャッチャーだし、あっちの二人は土弄りに夢中だし…。暇そうなの、ジュリスしかいねーから」

俺は別に暇を持て余してんじゃねーよ。

「リューイは審判だし。ジュリス、投げてくれ」

「…分かったよ」

キュレムに、ボールとグローブを渡された。

…本当に、本物みたいな重みと質感だな。

VRとは思えん。

…はぁ。

仕方ない…。…こうなったら、付き合ってやるよ。

俺はマウンドに立ち、バッターボックスで、かっこよくバットを振るキュレムと向き合った。

…さて、俺のピッチャー経験なんて、草野球の補欠要員程度だが。

果たして、今でも投げられるだろうか…。

「よーし!いつでも良いぞー!かかってこーい!」

「…よし、じゃあ行くぞ」

ピッチャー、振りかぶって。

投げました。

まずは手始めに、真っ直ぐのストレート。

「どっせぇぇい!」

キュレムは威勢の良い声を上げて、バットをフルスイング。

…スカッ。

俺の投げた球は、キャッチャーのルイーシュのミットに吸い込まれていった。

…おぉ。

昔取った杵柄、意外と出来るもんだな。

「…!?」

「凄い。何処ぞのポンコツマギアシューターとは全然違いますね」

キュレムは目を見開き、ルイーシュはミットに入った球を取って、俺に投げ返してきた。

「上手く入りましたが、厳密に言えば今のはボールですね」

と、審判リューイ。

良いじゃないか。勘弁してくれよ。

そこまで精密なコントロールなんて出来ないんだ。このにわかピッチャーには。

それでも、俺以上のにわかバッターであるキュレムには、驚異的だったようで。

「…なんだ今の球!?速くて見えなかったんだけど!?」

いや、見えるだろ普通に。

そこらの小学生球児でも、今の俺より速い球を投げると思うぞ。

「ズルいぞおい!ここはこーしえんなんだぞ!プロのピッチャー連れてくんな!」

「俺も素人だっつーの…」

何がズルいんだよ。お前こそ、ここはこーしえんなんだぞ。

プロ顔負けの実力を持つ、高校球児達の夢の舞台なんだからな。