神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

こーしえん球場に感動したらしいキュレムは。

「よし、こうなったらやろうぜ!」

…とか言い出した。

「やるって…。…何をやるんだよ?」

「お馬鹿。こーしえんに来てやるべきことと言えば、一つしかないだろ!」

…砂集めか?

ちらりと後ろを見ると、ベリクリーデとクロティルダはまだ、地面にしゃがみ込んで、土を集めていた。

まだ集めてんのかよ。

球場に穴が空くぞ。もうやめとけって。欲張りさんか?

「そう、野球だ!野球をやらなきゃ、こーしえんじゃないだろ!」

と、叫ぶキュレム。

…めっちゃ興奮してんな。

「野球って…。キュレムさん、出来るんですか?」

「大事なのは『出来るっぽさ』だろ。さぁ、やるぞ。夢のこーしえん投手!」

あ、キュレムが投げるのか…。

「おい審判天使君、ボールとグローブは?出せる?」

「勿論です。こちらをどうぞ」

「さんきゅ!」

リューイは、硬式野球ボールとグローブをキュレムに差し出した。

さんきゅ、って…。友達感覚かよ。

キュレム、お前興奮し過ぎて忘れてるのかもしれないが…相手は天使だぞ。

「よーし!…ここがこーしえんのマウンド…。一度、この景色を見てみたかった…!」

「はぁ、良かったですね」

「ここで会ったが百年目…。打てるものなら打ってみろ!」

グローブをつけて、何やら決め台詞を口にしているが。

高校球児はそんなこと言わんぞ。

「…いや、なんか違うな。それっぽさが足りない…」

「はぁ?」

「あ、キャッチャーだ。キャッチャーが足りないんだわ。ルイーシュ、ちょっとキャッチャーやってくれ」

「えぇぇ…。俺のポジションはベンチウォーマーであって、キャッチャーは本職じゃないんですけどね…」

ルイーシュ。ベンチウォーマーなんてポジションはない。

しかし、興奮する相棒の為に。

ルイーシュは渋々、グローブをつけてしゃがみ、構えた。

「はい、どうぞ。投げてください」

「よっしゃあ、行くぜ!喰らえっ…消える魔球!」

…何を言ってるんだか。

決め台詞と共に、キュレムはデタラメなフォームでボールを投げた。

…しかし、このキュレム投手は、あくまでVR世界の…架空の存在。

本物のキュレムは、当然こーしえん投手じゃないどころか。

現実では、野球なんて齧ったことさえない、ずぶの素人である。

従って。

キュレムの投げた消える魔球(?)は、ホームでミットを構えているルイーシュのもとに届くことはなく。

ホームよりも遥か手前で、有り得ない軌道を描き、墜落した。

…まぁ、現実はこんなものだ。

遠くから見ると、投手からキャッチャーまでの距離って、短いように見えるけど。

実際にマウンドに立つと、ホームまで結構遠いんだよ。

まずは、キャッチャーの座るあの位置までボールを届かせなければならない。

でなきゃ、ピッチャーなんて務まらないんだよ。

そこから、カーブとかスライダーとかフォークとか、巧みに球種を使い分け、更にコントロール能力や、球速も追求しなければならない。

まさに、職人技だよ。

素人が簡単に真似出来ることではない。