神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

何はともあれ。

俺は急いで、魔導部隊隊舎の裏口…裏門に向かった。

「おい、ベリクリーデ!何をやっ、」

「かくほーっ」

「うわぁっ!?」

姿を現すなり、真っ白な、大きな補虫網が振り下ろされた。

俺は咄嗟に一歩引いて、その網を避けた。

お陰で、捕獲されずに済んだが…。

「むむっ!逃げられた…」

「お前っ…な、何やってるんだよ…!?」

「あ、ジュリスだ」

捕虫網を振り下ろした張本人であるベリクリーデは、きょとんとした顔でこちらを見つめていた。

隊員を捕獲してる、って聞いたけど。

これか?これのことなのか?

「…昆虫採集ならぬ、隊員採集でもしてるのかよ?」

「??違うよ?」

「じゃあ、その網は何だよ」

今、「確保ーっ」て言いながら振り下ろしただろ。

危うく俺は、セミのごとく、捕虫網に捕らわれるところだった。

しかも。

よく見たら、俺とベリクリーデの足元に、白いものが散らばっている。

「何だよこれ…?」

「おこめ」

「米…?」

「うん。鳥さん捕まえようと思って。餌におこめもらって、撒いたの」

「…」

「うーん。鳥さん、なかなか捕まらないなー」

…ちょっと、この女が何を考えてるのか、誰か説明して欲しいんだけど。

そんな都合の良い人はいないので、自分で考察するしかない。

えーと。ベリクリーデは人間じゃなくて、鳥を捕まえようとしてて?

その為にお米をもらってきて、それを地面に撒いて餌にして。

人の…って言うか、生き物の気配がしたら、捕虫網を振り下ろして、捕獲しようとしてた…と。

そういう理解でOK?

分からないのは、何故ベリクリーデがそうまでして、鳥を捕まえようとしているかだ。

…鳥っていうのは何?インコ?カラス?すずめ?

そんでお前さっき、「俺みたいに人の役に立つ」とか言ってたよな?

鳥を捕まえることが、何で「人の役に立つ」ことに繋がるんだ?

あ、害鳥か?害鳥が出るから、それを捕まえようとしてるのか?

ムクドリの群れとか、最近都市部で問題になってるもんな。

それは分かるけども、捕虫網で捕まえてどうするつもりだったんだ…。

「あのな、ベリクリーデ…。いくら人に迷惑をかけてる害鳥でも、勝手に殺しちゃいけないんだぞ。鳥よけネットを装着するとか、大きな音を立てるとかして…」

「ほぇ?がいちょー?」

「え?害鳥対策の為に捕まえてるんじゃ…」

「違うよ。今日のご飯にするの」

「ごめん。ちょっとどういうことなのか説明してくれないか?」

もう無理。俺、もうお前の行動を理解するの無理だわ。

思考停止は愚かな選択だって?

知るか。

時には諦めることも大切なんだよ。