神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

「…おいお前ら。ウチのベリクリーデに何しやがんだ」

普段の声と比べると、1オクターブくらい低い声で。

ジュリスは、般若か阿修羅みたいな形相で、少年達に凄んだ。

怖っ、と思わず言ってしまいそうになった。

いつものジュリスとは、まさに別人だ。

普段のジュリスは、人当たりが良くて、何だかんだと面倒見が良くて、誰に対しても明るく、そして優しい。

ちょっとくらいミスっても、「ごめん!」と謝れば、「しょうがねぇなぁ」で許してくれる、器の大きさがある。

これでも結構長生きらしいから、ジュリス。意外と気が長いんだ。

…しかし、ベリクリーデちゃんに関することとなれば、話は別だ。

聖魔騎士団では誰一人、ベリクリーデちゃんに嫌がらせしたり、悪口を言う者などいない。

ベリクリーデちゃんが許しても、この男が黙ってないからである。

見てみろ、今のジュリスを。

ガチギレだぞ。小学生に対して。

「ふざけてんのか。喧嘩売ってんのか。あぁ?」

完全に、チンピラの台詞じゃん。

普段のおおらかさは何処に消えた?

ジュリスは、涙を滲ませてぷるぷると震えるベリクリーデちゃんを、守るように前に出て。

取り立て中のヤ●ザかな?みたいな声音と形相で、少年達を睨みつけた。

虎の尾を踏みつけてしまった、と気づいたらしい少年達。

ジュリス一人に、4人共震え上がっていた。

「大人に向かってボールをぶつけるなんざ、お前らどういう教育をされてんだ?」

「ご、ご、ごめんなさ、」

ボールを蹴ってしまった真ん中の少年が、泣きそうになりながら謝罪しようとしたが、

「人様にボールぶつけといて、謝罪も無しとは。大人を舐めてんのか?」

今、謝ろうとしてたじゃん。聞いてやれよ。

駄目だ、ジュリスのヤツ。

頭に血が上って、全然人の話聞いてない。

どうしよう。俺はどうすれば良いんだ?

「おい、ルイーシュ。何とかしてくれ…!」

俺は、傍らのルイーシュに助けを求めた。

「いえ、俺に言われても…。これは当事者同士の争いなので、下手に関わりたくな、いや関わらない方が良いのでは」

関わりたくないって、本音が出てんじゃないか。

「でも、放っとく訳にはいかんだろ!このままじゃ、あの少年達、うっかりボロ雑巾にさせられちまうぞ…!」

長生きのジュリスは、実に器用に、様々な魔法を使いこなす。

杖を持たない小学生坊主なんざ、ジュリスにとっては赤子同然。

しかも今のジュリスは、相手が子供だろうと非魔導師だろうと関係ない。

「ベリクリーデちゃんを泣かせた相手=敵」なのだ。ジュリスにとっては。

そして、ジュリスは敵に対しては、容赦しない。

「良いか、ジュリスは聖魔騎士団魔導部隊の大隊長なんだぞ。そんな奴を、誰が止められるんだよ…!?」

「なんか忘れてるのかもしれませんけど、あなたも聖魔騎士団魔導部隊の大隊長なんですよ」

「そうだったよ、忘れてた…!」

…ってことは、俺なら止められるのでは?

…んな訳ねーだろ。アホか。

大隊長だろうが大天使だろうが、怖いもんは怖いんだよ。馬鹿ちん。