神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

俺とベリクリーデは、階段を上って二階に向かった。

この小さなアパートには、残念ながらエレベーターなんて便利なものはない。

階段を上って、4番目の部屋…204号室の前で、俺は足を止めた。

「…ここだな」

「ここ?誰が住んでるの?」

いや、誰が住んでるの、じゃなくて。

「俺達が住むんだよ」

鍵穴に鍵を突っ込み、錆びかけたドアノブを回す。

ガチャッ、と部屋の扉が開いた。

その小さな玄関に、俺は迷うことなく足を踏み入れた。

そして、その場に立ち尽くした。

「…ジュリス?」

「…」

「ジュリス、ジュリス〜」

「…」

「…ジュリスが静かになっちゃった…。どうしよう…。…あ、そうだ。それじゃ、えーとえーと…」

「…」

「あ、見てジュリス、あそこ。猫が空飛んでる!」

「…あのな、ベリクリーデ…」

せめてそこは素直に、「あっ、UFO!」って言えよ。

猫が空を飛ぶかよ。絶対嘘だって分かるじゃん。

「ちゃんと聞こえてるから。耳元で喚かなくて良いよ」

「だって、ジュリスが返事してくれなかったから…」

「ちょっと…部屋の中に入って、部屋の空気を確かめたかったんだよ」

「…空気?」

ほら、初めて入る家とか、部屋とか。

その部屋独特の空気、雰囲気ってものがあるじゃん?

ここは特に…「そういう部屋」だそうだから。

そういう部屋特有の、冷たくて緊張するような空気を感じるんじゃないかって…。ちょっと、身構えたんだが。

今のところ、そういう気配はない…か?

まぁ、俺も特別…霊感がある訳じゃないからな。

入った感じ、気持ち悪いものは感じない。

何の変哲もない、安いボロアパートの一室って感じ…。

「ベリクリーデ、ちょっと、お前も入ってみてくれ」

「ほぇ?」

ベリクリーデなら、俺には分からないものを感じるかもしれない。

と思って、ベリクリーデを部屋に上げた。

ベリクリーデは、ひょいっ、と部屋に入ってきた。

「どうだ。何か感じるか?」

「…??何を?」

「嫌な感じがする、とか…。視線を感じる、とか…」

「ジュリスがこっち見てるよー」

「いや、俺じゃなくてさ…」

…この様子だと、どうやらベリクリーデも、何も感じてないらしいな。

いつも通りの、きょとーん、ぽやーんとした表情である。

…ふむ。

「まぁ、そう露骨じゃないよな…」

「…?」

素人でもはっきりと「分かる」くらいヤバい物件なら。

普通の人なら、内覧の時点で断るだろうし…。

それでも一定数の入居者が現れるということは、一見したところでは分からないのだ。

「…仕方ない。もう少し探ってみるとするか」

「家探し?家探しするの?」

「家探し言うな」

ここ、自分の部屋だから。

自分の部屋を探す分には、家探しにはならないだろ。