神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

「何だよ…。俺は今疲れてるんだ」

ベリクリーデは相変わらず、今日も元気いっぱいだった。

…ったく。俺の苦労も知らずに、お前って奴は。

俺後にしてくれよ、と言いたいところだったが。

3歳児並みに好奇心いっぱいのベリクリーデに、それは通用しない。

…かくなる上は。

「…よし、キュレム。ルイーシュ」

俺は、向かい側に座って定食を食べていた同僚を巻き込むことにした。

「何だよ?」

「ベリクリーデの相手を頼む」

「マジかよ。それ君の特権じゃねぇの?」

ちげーよ。勝手に特権にするな。

ベリクリーデの相手がしたいなら、誰でも好きな時にどうぞ。

「ほらベリクリーデ。あの二人に相手してもらえ」

「ほぇ?」

俺は、キュレムとルイーシュを指差した。

良いか、俺は寝不足なんだよ。眠いの。分かる?

ベリクリーデは、俺とキュレムを交互に見て。

「ねぇねぇ」

早速、キュレムとルイーシュに絡みに行った。

そう、それで良い。

「おう、何だベリクリーデちゃん」

「すっごく大事なことを聞きたいの。聞いても良い?」

「おぉ。恋愛相談以外なら何でも相談に乗るぞ」

ベリクリーデが恋愛相談なんてしようものなら、俺が黙ってないっつーの。

冗談じゃねぇ。

っつーか、ベリクリーデの言う「すっごく大事なこと」って、一体。

ベリクリーデは、自分の皿の上のサラダを指差した。

もっと正確に言うと…サラダの中の、トマトを。

「…プチトマトとミニトマトって、どう違うの?」

…は?

「プチトマトと…ミニトマト?」

これには、キュレムも困惑。当たり前。

「うん。どっちもちっちゃいトマトでしょ?それなのに、なんで名前が違うのかなーって思って」

…すっごく大事なこと、ってそれ?

すっごくどうでも良いこと、の間違いじゃなくて?

「成程…。確かに、誰もが小学生の頃、一度は考えたことだな」

キュレムもキュレムで、真面目に答えるなよ。

「そんなことどうでも良いわ!」って言って良いんだぞ。

「じゃあベリクリーデちゃんに教えてあげよう」

「わーい」

えぇと…ミニトマトとプチトマトの違いは…。

あれって、品種の違い、とかじゃねぇの?

「プチトマトはプチさんって人が考えたトマトで、ミニトマトはミニさんって人が考えたトマトなんだよ」

食べてた白米、思わず吹き出すところだった。

おいキュレム。お前、何適当なことをベリクリーデに吹き込んでるんだ。

「ほぇー」

そしてベリクリーデ。お前もそれで納得するなよ。

疑問を持て。お前、キュレムに騙されてるんだよ。

「じゃあ、ナスとナスビはどう違うの?」

それもよくある質問だよな。

どっちでも良いよ。どっちもナスだ。煮物にしたら美味いよ。

「それは…。…ルイーシュ、何でだか知ってるか?」

「ベリクリーデさん、ナスビは漢字で書くと『茄子美』なんですよ」

とか言って、ルイーシュは空中に漢字を書く真似をして説明した。

「ナスの中でも特に形が良く、色艶の良いナスだけが茄子美、つまりナスビと呼ばれ、そうでもないナスは、ただナスとだけ呼ばれるんです」

「ほぇー」

へぇー、そうなんだ。…って、思わず納得してしまいそうになるが。

…本気にするなよ。これ、ルイーシュの嘘だから。