神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

次は、校舎の裏に向かった。

そちらに、人の声がしたからだ。

…誰かの、間の抜けた人の歌声が。

「朝から元気に〜♪水を〜撒くよ〜♪はいっ!」

「はい、はい」

「よっこいしょー」

「お日様さんさん〜♪水を〜たっぷり〜♪はいっ!」

「はい、はい」

「どっこいしょー」

…何だろう、この歌声は。

歌声の聞こえる方に向かうと、そこには何故か、畑があった。

魔導学院なのに、畑があった。

しかも、思ったより結構広い。

その畑で、野菜の少女が水撒きをしていた。

…歌いながら。

その隣で、二人の少年が、同じく水撒きをしていた。

…合いの手を入れながら。

もしかして…これが、イーニシュフェルト魔導学院の園芸部…。

こんなところに…本当に畑が…。

畑には、たくさんの野菜が青々と実っていた。

今日の朝食で提供されたトマトスープのトマトは、この畑で収穫されたものだったとか。

「よーし、水撒き完了〜っ!」

「おめでとー」

「…拍手、要る?」

しかも、よく見たら。この少年二人。

ジャマ王国出身の、元暗殺者じゃないか。

彼らのことも知っている。要注意人物だ。

一人は、黒月令月。

もう一人は、花曇すぐりだったか。

二人共まだ子供だが、ジャマ王国に生まれた彼らは、『アメノミコト』という大規模な暗殺者組織で育てられ。 

そこで地獄のような経験をしながら、シルナ・エインリーの暗殺の為にルーデュニア聖王国にやって来たとか…。

結局暗殺は失敗し、行く当てをなくした二人は、このイーニシュフェルト魔導学院に引き取られたそうだ。

異邦人で、おまけに元暗殺者。

他に行く場所もなく、幼い頃から暗殺以外何も知らず。

シルナ・エインリーに捨てられたら最後、路頭に迷ってしまうことは間違いない。

だからこそ二人は、このイーニシュフェルト魔導学院という檻の中で、飼われるように暮らしているのだと思っていた…。

…しかし、見たところ。
 
「おぉー!見て見て、トマト、今日もいっぱい成ってるねー」

「今日、トマトスープにしてもらう約束だったけど」

「これはどーやって食べるの?」

「うーん、そうだな〜…。…食パンにトマトを乗っけて焼く、トマトーストってどう!?」

「「おぉー」」

…普通に、ナマで齧れば良いのでは?

畑のトマトに夢中になってる辺り、とても檻の中で飼い殺しにされているようには見えない…。

むしろ、年相応に学校生活を楽しんでいるように見える。