神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

…読心魔法教師が、脳天に拳骨を喰らった後。

「おはよう、みんな…って、ナジュ君大丈夫っ?」

「あ、おはようございます天音さん」

そこにやって来たのが、同じくシルナ・エインリーの配下である、天音・オルティス・グランディエ。

こちらは、回復魔法が専門の魔導師だそうだ。

元々は、目の前にいるルーチェス・ナジュ・アンブローシアへの復讐心の為に、イーニシュフェルト魔導学院にやって来たと聞いている。

自らの復讐相手と、一つ屋根の下で生活しているのだ。

互いに憎しみ合い、いがみ合い、敵意を燃やしているに違いないと思っていたが…。

「ナジュ君!頭、頭、大丈夫!?」

「…出会い頭に『頭大丈夫?』とは、天音さんもなかなか辛辣なことを言いますね」

「ち、ちがっ。そういう意味じゃなくて!」

危うく、誤解を招きそうな質問だったな。

「あ、頭におっきいコブがあるから…大丈夫かなって」

「あぁそれですか。そうなんです、酷いんですよイレースさんが。僕は生徒に共感してあげただけなのに」

「そ、そうだったんだ…」

天音・オルティス・グランディエは、回復魔法でコブを治してやっていた。

…険悪な仲…には、とても見えない。

むしろ、放っておいても治る怪我を、わざわざ治してやるなんて…。

復讐相手にすることか?それが…。

「…それにしても」

と、ルーチェス・ナジュ・アンブローシアは、テーブルの上を見下ろした。

「今朝のメニュー、何だが凄い組み合わせですね」

「え?あ…。…言われてみれば、確かに…」

今朝の、イーニシュフェルト魔導学院の朝食のメニュー。

ご飯、鯵の干物、漬物、トマトスープ、そしてデザートにチョコまん。

…前半は良いとして、後半の組み合わせは何なんだろう。

シェフの気まぐれモーニングということなのだろうか。

「何でトマトスープなんだろう…?そこは普通、味噌汁…」

「このトマトスープのトマトは、園芸部の畑で採れたトマトなんですよ」

と、ルーチェス・ナジュ・アンブローシアが説明した。

「え、そうなの?」

…園芸部の畑?

ここは魔導学院なのに、何故園芸部が…?

「えぇ。たくさん採れたので食堂にもお裾分けするんだって、ツキナさんが言ってましたから」

「あ、そうなんだ…。へぇ〜…。上手に作ってるね、凄く美味しいよ…。…干物には合わないけど」

「まぁ、干物にはあんまり合いませんね」

…トマト味噌汁、とかの方が良かったかもしれない。

…果たして合うのだろうか。

「イレースさんも、そう思いません?」

ルーチェス・ナジュ・アンブローシアが、同僚のイレース・クローリアに同意を求めると。

「食べられれば、何でもよろしい」

と言って、平気な顔でトマトスープを飲んでいた。

「それよりも私は、このチョコまんの出処が気になりますね」

「うっ…。…朝から、チョコまん…」

「余ったんでしょうね、多分。学院長のおやつ」

「…ちっ、あのパンダ…」

…何だか毒づいているが。

…3人共、特に仲が悪い、という訳ではなさそうだ。

むしろ、仲が良さそうな…。

…。

…まだ、観察の余地がありそうだ。