神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

…まぁ今のは見なかったことにして。

次だ、次。

次に俺は、学院内の食堂に向かった。

と言うか、校舎に集まる生徒達が、みな一様に同じ場所目指して歩いているので。

一体何があるのかと、後ろをついて行ったら、そこが食堂だったのだ。

成程、食堂…。

…何故食堂が必要なのだろう?

人間は食事を摂らなければ生きていけないが、それは魔力のない人間だけだ。

聖賢者シルナ・エインリー以下、この学院にいる魔導師の卵達は。

体内の保有魔力が豊富な為、食事をする必要はないはずなのだ。

それなのに…。…何故?

その謎を確かめる為にも、是非観察しておく必要がある。

…すると。

「あ、ナジュ先生おはようございます」

「おはようございます、みなさん」

聞き覚えのある名前だ。

ナジュ…。ルーチェス・ナジュ・アンブローシアだ。

彼は要注意人物として、天使達の中でもよく名前が挙がる人物でもある。

読心魔法という稀有な魔法の使い手であり、そして何より、幼い頃に冥界の女王…最上位クラスの魔物と融合している。

その為、殺しても死なない。まさに不死身の身体の持ち主なのだ。

だからこそだろう、と思っている。

聖賢者シルナ・エインリーが、ルーチェス・ナジュ・アンブローシアを配下に引き入れたのは。

彼は諜報に非常に役立つし、いざという時は肉の壁にすることも出来る。

シルナ・エインリーに利用され、死ぬことも逃げることも出来ず。

常に陰鬱と、地獄の中で暮らしているかのように暗い人物だと思っていたが…。

「おはようございます、タマキさん。…昨夜は徹夜ですか?」

「えっ、なっ、何で分かるんですか?」

意外なことに。

ルーチェス・ナジュ・アンブローシアは、気軽な様子でタマキという男子生徒に声をかけた。

「いえ?何だか眠そうだなーと思って」

「は、はい…。実は、その…え、えぇと…。…い、イレース先生には内緒にしてくれますか?」

「勿論ですよ」

「…今読んでる本が面白くて…こっそり夜中に読んでました…」

成程。宵っ張りで読書していたらしい。

読書は感心だが、人間ならば夜は寝た方が効率的だと思う。

「そうでしたか。まぁ、そんな時もありますよ。きっと」

「あ、ありがとうございます…」

「ところでミユキさん、あなたも」

「へっ?」

「何だか眠そうですね?」

「な…何で分かるんですかっ?」

ルーチェス・ナジュ・アンブローシアは、にこりと微笑んだが。

人間が寝不足かどうかは、目の下のクマや、顔色などで判断するのが一般的だが。

彼の場合、恐らく、得意の読心魔法を使ったのだろう。

「見れば分かりますよ」

心が読めるのだから当然である。

「うぅ…。今日の小テスト、自信がなくて…。お布団の中で復習してたんです…」

「そうでしたか。それは感心ですね」

成程。宵っ張りでテスト勉強をしていたらしい。

「でも、寝る時はしっかり寝た方が良いですよ。大丈夫ですって、小テストくらい、手を抜いたってバチは当たらな、」

「ひっ!ナジュ先生!後ろ、後ろ!」

いつの間にか。

ルーチェス・ナジュ・アンブローシアの後ろに、怒りの黒い気を放つイレース・クローリアが立っていた。

こうして、悪は成敗される。