神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

さて、まずやって来たのはイーニシュフェルト魔導学院。

ここに、シルナ・エインリーがいる。

ここが、かの聖賢者が建てた魔導師養成学校…。

かつてイーニシュフェルトの里では、厳しく、厳格で、厳粛な教育方針のもと。

里の賢者達は、血の滲むような並々ならぬ努力を重ね、時にはあまりの厳しさに命を落とす者もいたそうだ。

そんな聖賢者の生き残り、シルナ・エインリーが建てた学校なのだ。

きっと、さぞかし厳しい…そう、俗に言うスパルタ学校なのだろう。

「…!」

噂をすれば。

向こうから、いかにも厳粛に教育に取り組んでいそうな、凛とした態度の女性教師が歩いてきた。

彼女は書類の束を抱え、キリリとした眼差しで、つかつかと早足で歩いている。

成程…。いかにも…。まるで軍隊に所属する女曹長のようだ。

名前は確か…イレース・クローリアだったか。

美人ではあるが、目つきは鋭い。

すると、そこに。

廊下の向こうから、件の、シルナ・エインリー本人が歩いてきた。

いきなり、親玉が降臨。

こちらの姿は見えていないはずだが、それでも少し緊張してしまった。

シルナ・エインリーと言えば、神殺しの魔法を使い、聖戦を終わらせた救世主であり。

自らその救世主の座を捨て、邪神イングレアの手先となった、堕ちた聖賢者。

彼のもとには多くの部下、従者達が集まっているそうだ。

そこの女教師、イレース・クローリアも。

シルナ・エインリーを見れば、すぐさま直立不動の姿勢になって、腰を90度に曲げて挨拶す、

「あ、イレースちゃん。おはよー」

ひらひらと手を振る聖賢者、シルナ・エインリー。

「…あら」

イレース・クローリアは、そんなシルナ・エインリーにお辞儀…も、敬礼…も、せず。

ちらり、と一瞥しただけだった。

「学院長かと思ったら、パンダでしたか。おはようございます」

「うん、おはよー…。…?」

すたすた、とそのまま歩き去るイレース。

シルナ・エインリーもそのまま、すれ違って数歩歩いたのだが。

突然、しゅばっ、と振り返った。

「ねぇイレースちゃん!逆!学院長だと思っといて!ねぇ!ぎゃく〜っ!!」

…廊下に、「ぎゃく〜」という、情けない聖賢者シルナ・エインリーの悲鳴が響き渡った。