神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

周囲から、「おぉーっ」という歓声があがった。

「…ほぇー…」

これには、ベリクリーデも口をぽかんと開けて、花火に見入っていた。

「ジュリス、花火だよ。花火」

「あぁ、そうだな」

「今日、花火大会なんだった。忘れてた…」

…本当に忘れてたのかよ。

「綺麗だね。凄く綺麗だね」

「そうだな」

「あ、あれを言わなきゃ。たまやー」

定番の台詞ではあるが。

本当に言ってる奴は初めて見たな。

「かぎやー」

「はいはい」

「くさやー」

「…くさやはやめろよ」

何処で学んできたんだ?なぁ。

恥ずかしいからやめなさい。

「…どうだ?クロティルダ。人間界の花火は」

俺は、無言で花火を見つめるクロティルダに尋ねた。

すると、クロティルダは真顔で。

「あぁ…。美しいな」

「お、おぉ…。…良かったな」

「まるで人間の一生のようだ。暗闇の中に美しく咲き、そして一瞬で散っていく…。後には何も残らない」

「…」

「その儚い美しさこそ、人間という生き物の生の在り方なのだろうな」

…花火で人生語ってる奴がいるんだけど。

こいつは触れない方が良いな。よし、そうしよう。

「わー。見て見てジュリス、星の形だよ」

「そうだな」

定番の菊や牡丹のみならず。

最近の花火は、星やハートや土星など、色々な形の花火も上がるんだな。

これは凄い。面白いな。

色もカラフルで、星は黄色、ハートはピンク色など、ちゃんと色分けもされている。

「凄いね。面白いね、ね、ジュリス」

「はいはい。そうだな」

「綺麗だね〜」

…喜んでるようで良かった。

連れてきた甲斐があったよ。

今頃無闇と月読も、この会場の何処かで、同じ花火を見上げてるんだろうな。

それから…。

…と、思ったその時。

「どうだ、二人共。見えるか!?」

「わーい!高い高い〜!」

「きゃっきゃっ!」

…何処からか、聞き覚えのある声がした。

恐る恐る、そちらを振り向くと。

「おとうしゃま、すごーい!」

「きゃっきゃっ!」

見たくなかったけど、見てしまった。

そこには、アトラスがいて。

二人の子供達を自分の肩の上に乗せて両手で支え、自分の肩をさながら観客席代わりにして。

子供達に、花火を見せてやっていた。

「ねぇおとうしゃま。もっと高いところで見たい!」

「よし、任せろ。…これでどうだ!」

愛娘にせがまれて、アトラスは更に、子供達を高々と掲げるようにして担ぎ上げた。

怪力のアトラスだからこそ出来る業。

お陰でアイナとレグルスは、周囲から頭一つ、どころか頭二つ抜きん出て。

まさに、「特等席」で花火を鑑賞していた。

「わー、高い高い!おとうしゃま、すごーい!」

「きゃっきゃっ!」

大はしゃぎする子供達に、アトラスも大満足の様子だったが。

一方周囲の人々は、「何なのこの人?」みたいな顔をしていた。

…。

悲しいけどあれ、俺達の上司なんだよね。

「あれ、アトラスだね」

ベリクリーデも気づいたようだ。

「おーい、アトラ…」

「やめとけ、声を掛けるな」

いつもは、頼もしい我らが上司だが。

今ばかりは、知り合いだと思われたくなかった。

「…とりあえず、シュニィには黙っておこう…」

この姿をシュニィが見たら、きっと恥ずかしさのあまり悶絶することだろう。

世の中には知らない方が良いことってものもある。そういうことだ。