神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

女の着替えは時間がかかる、と相場が決まっているが。

男の着替えは早いもので、俺はものの10分足らずで浴衣を着た。

鏡で自分の姿を見て、思わず笑ってしまいそうになった。

浴衣を着ている、じゃなくて。浴衣に着られてる、って感じ。

出来るだけ、地味なデザインを買ってきて良かった。

それにしても久し振りに着たな。浴衣なんて。

まぁ、滅多に着るものじゃないからな。

浴衣っていうのは女性が着るもの、と思われがちだが。

配信ではその常識も変わってきているのか、男モノの浴衣も、かなりたくさんの種類が売られていた。

これにはびっくりしたよ。

とはいえ、男があまり派手な柄の浴衣を着るのもなぁ…。

…などと考えながら、シュニィの部屋の前で待っていると。

「ジュリスさん、出来ましたよ」

シュニィが扉を少し開けて、俺を呼んだ。

「おぉ、出来たか」

「浴衣を着せて、それから髪をセットしました。あとは帯だけです」

「ありがとう」

じゃ、続きは俺がやるとするかな。

俺は、シュニィの部屋に入れてもらった。

「ベリクリーデ。準備は…」

「あ、ジュリスだ」

「…」

「ジュリス、見て見てー。出来たよ」

ベリクリーデは嬉しそうに、その場でくるくる回ってみせた。

こら、折角綺麗に着せてもらったんだから、うろちょろするんじゃない。とか。

まだ帯を結んでないから、完成じゃないだろ、とか。

言いたいことは色々あるはずなのに、俺は一瞬、言葉が出なかった。

というのも、だって…ベリクリーデの浴衣姿が…。

「ベリクリーデさん、凄くよく似合ってますね」

シュニィが、俺の言いたいことを代弁してくれた。

「ベリクリーデさんにぴったりの色です。この浴衣、ジュリスさんが選んだんでしょう?」

「え?あ、あぁ…」

「やっぱり。さすがジュリスさんのセンスですね」

「…」

シュニィに褒められて、嬉しい気持ちも、照れ臭い気持ちもあるのだが…。

…それ以上に。

「ねぇねぇ、ジュリス。似合う?似合う?」

「…うん…まぁ…。…良いんじゃねぇの?」

俺は、そう返事をするのが精一杯だった。

「その…馬子にも衣装って言うもんな」

「まご?」

馬子だよ、馬子。

「まったく…ジュリスさんったら、素直じゃないんですから…」

シュニィが横でくすっと笑っているのは、見なかったことにして。

「良いから、ベリクリーデ。大人しくしてろ。帯を結ぶからな」

「わーい。ぐるぐる〜」

俺は長い帯を手に、ベリクリーデの胴体に巻きつけた。

最近は、挿し込むだけで簡単につけられる市販の作り帯も売っているが。

そういう作り帯って、大抵蝶結びばかりだからな。

着付けはシュニィに手伝ってもらったんだし、帯だけは、自分の手で結んでやりたかった。