神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

「…脱ぎなさい」

「えっ」

俺は、静かにベリクリーデに命じた。

「それ、脱ぎなさい。誰が十二単衣なんか着てんだ」

今日日、そんなん着てる人はいねーよ。

あと、ベリクリーデもクロティルダも、勘違いしているようだが。

十二単衣って、別に12枚の布を着込むことじゃないから。

「本当にそんな格好してみろ。重くて歩けないだろ」

鎧を着込んでるようなものだ。

ただでさえ落ち着きのないベリクリーデが、こんな動きにくい服を着てみろ。

一歩足を踏み出した瞬間に、その場にすってんころりんする様が目に浮かぶ。

「シュニィが着てたのはそれじゃない」

「えっ。違うの?」

「違うのか?」

二人して、似たような顔できょとんとする。

ベリクリーデは良いが、クロティルダ、お前はムカつくからやめろ。

「当たり前だろ。十二単衣なんて、いつの時代だよ」

クロティルダの奴、価値観が大昔のまま止まってやがる。

「シュニィが着てたのは浴衣だ。浴衣」

「ゆかた…?…これじゃないの?」

「違うよ。脱ぎなさい」

と、軽く言ったのが間違いだった。

「うん、分かった」

と言って、ベリクリーデはその場で、俺の目の前で、着ていた5枚の布を取っ払った。

これには面食らった。

どうやらベリクリーデは、最低限の下着の上に、そのまま十二単衣を着ようとしていたらしく。

だから十二単衣を脱ぐと、その、ベリクリーデの肌があらわに。

俺は、慌てて両手で顔を押さえた。

見たくなかったけど、見えてしまった。一瞬。

一瞬だから許してくれ。

「ちょ、馬鹿。俺の前で脱ぐなよ!」

「ほぇ?」

お前って奴は。少しは恥ずかしいという気持ちがないのか!

「服、良いから服を着ろ。何でも良いから!」

「だって。クロティルダ、なんか服取ってー」

「これで良いか?」

俺は、必死にあられもない姿のベリクリーデを見ないように、目を閉じていたが。

クロティルダはまったく動じておらず、下着姿のベリクリーデに、別の洋服を差し出していた。

この変態め。

駄目だ、この部屋。まともな感性してるの、俺しかいない。

「…服、着たか?」

「ちょっと待って。…ボタンが上手く留まらないよぅ」

何をやってんだお前は。早くしろ。

「手伝おう」

「わーい。ありがとう、クロティルダ」

ボタンくらい自分で留めろよ。ったく。

クロティルダもクロティルダで、いつもベリクリーデを甘やかすから…。

「…着たか?」

「着たよ」

「…よし」

目を開けると、ちゃんと服を着たベリクリーデがそこにいた。

…よろしい。