神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

ベリクリーデの間抜けな寝顔を見つめながら、3時間ほど経過した頃。

俺もベリクリーデの傍らの椅子に座って、軽く目を閉じてうとうとしていたのだが。

そこに、思わぬ訪問客がやって来た。

突然、部屋の扉がそーっと、ほんの少しだけ開けられた。

「もし…。…もし、ジュリス、いるー?」

「キュレムさん、いきなり入ったら駄目ですって」

ん?この声は…。

「え、何で?」

「恋人達の寝室ですよ。うっかり繁殖活動してたらどうするんですか」

「おぉ、それはやべぇ!確かに有り得るな」

…何がだよ?

スッ、と部屋の扉が閉まった。

しかし、声が向こうから聞こえてくる。

「昨日ベリクリーデちゃん、ジュリスがいなくてめちゃくちゃ寂しがってたもんな」

「『寂しい思いさせてごめんな。代わりに今夜は…』とかやってるかもしれませんね」

「うへぁ。どうする?ルイーシュ。この部屋、ダイナマイト放り込んでやろうか」

「いっそナパーム弾でも撃ち込みましょうかね」

「末永く爆発して欲しいもんな」

…何言ってんだ?あいつら。

何だかとんでもない誤解をしていることだけは、よく分かる。

しかも、とんでもなく下衆な誤解を。

俺は立ち上がって、こちらから扉を開けた。

「おい。お前ら」

「おっ、ジュリス。賢者タイムか?」

ぶっ飛ばすぞお前。

「静かにしろ。今、ベリクリーデが寝てんだよ」

「ほう…。…やることは終わったのか?」

「何もやってねーよ。勝手な妄想やめろ」

言っとくが、今、ベリクリーデが寝てるから。大声を出していないだけで。

そうじゃなかったら、「ふざけんな、童貞の妄想やめろ!」と怒鳴りつけてやったところだ。

運が良かったな。

「大体ベリクリーデは、今風邪引いて寝込んでるんだぞ」

「そうか…。…つまり風邪を引いてなかったら、」

「そういう意味じゃねーよ」

高校生か?男子高校生のノリか?

そういうのはいい加減卒業してくれ。

「それで、何なんだお前ら。冷やかしにでも来たのか」

今ベリクリーデは寝てるんだから、騒いで起こさないでくれよ。

「いや…。ベリクリーデちゃんどうしてるかなって、様子見に来た」

「それと、何か看病に必要なものがあったら、調達してきますけど」

…とのこと。

…意外と真っ当な、しかも親切な用事だった。

なら、最初からそう言ってくれよ。冷やかさずに。

「悪いな…。…それじゃ、アイスクリームと…それから、一応予備の服薬ゼリーも買ってきてもらえるか」

「あいよー」

これ以上風邪が長引いたら、足りたくなるかもしれないからな。

「それじゃ、ルイーシュ。パシリに行くか」

「そうですね」

「ありがとうな、二人共…」

ベリクリーデのこと、心配してくれて。

昨夜も随分、心配をかけてしまっ、

「大丈夫、大丈夫。後で寿司奢ってもらうつもりだから」

「今のうちに、恩と媚びを売っておかなくてはいけませんからね」

…お前らの良心を信じた俺が馬鹿だったよ。

そういやそんなこと言ってたな。

…分かったよ。

それでベリクリーデが治るなら、寿司くらい安いもんだ。