神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

しかし。

ベリクリーデの寝室は、酷い有り様になっていた。

「うわっ…」

びっくりした。

部屋に入るなり、デカいタライに遭遇したからである。

タライって知ってるか。洗濯板で洗濯する時に使う、丸い大きなバケツみたいなアレ。

ベリクリーデの部屋のど真ん中に、何処から持ってきたのか、プラスチック製の巨大なタライが置いてあった。

そこに水が満たされていて、部屋中、こぼれた水が撒き散らされていた。

何この部屋。

それに、毛布。

ベリクリーデのベッドには、大量の毛布がかけられていた。

一体何枚あるんだ?何処から持ってきたんだ?

一枚、二枚、三枚…いやもっとあるぞ。

「ベリクリーデ、お前、これ…」

「へくちゅんっ!」

「あ、ごめん…」

問い詰める前に、まずは寝かせないと。

俺は両手でベリクリーデを抱えたまま、足でタライを脇に避け。

毛布をベッドから全部落っことして、マットレスにベリクリーデを降ろした。

「これで良し、っと…」

「ほぇ〜…。…もっと抱っこしてて欲しかったな…」

は?

それより、掛け布団、掛け布団…。

ベッドの周りに散らかった毛布のうち一枚、ピンク色の毛布を手に取って、ベリクリーデの身体にかけてやったが…。

「やら。じゅりす、これ、や」

「は?何が嫌なんだ?」

「あっちの青いのが良い…」

と言って、ベリクリーデは足元に蹴っ飛ばしてあった、別の毛布を指差した。

…あの青い毛布、なんか見覚えがある。

「…ってこれ、俺の毛布じゃね…!?」

「え?うん」

「何でここにあるんだよ…?」

「ジュリスの匂いがするから、持ってきたの」

「えっ…」

「だって、ジュリスいなくて寂しかったんだもん」

「…」

そんなストレートに言われたら、叱るに叱れないじゃないか。

…まぁ、ハナから叱るつもりはないが。

「はいはい、分かった分かった」

俺はベリクリーデの希望通り、俺の…青い毛布を手に取って、それをベリクリーデにかけてやった。

すると、ベリクリーデは安心したように、ほにゃあ、と間抜けな笑みを浮かべた。

「…ずびびっ」

…鼻垂らしてるけど。

「ほら、鼻を噛めって」

「ふぇぇ…。ちーん」

さっき鼻噛んだばかりなのに。また鼻詰まり。

「お前の部屋、何でこんなに毛布があるんだよ?…それに、そこのタライは何なんだ?」

「…ほぇ?」

「ほぇ、じゃなくてさ…」

お前、困ったらその言葉で切り抜けようとするだろ。やめなさい。

「だって、暑かったから…」

「…は?」

「暑かったから、水浴びしようと思って、お水汲んできたの」

へぇ成程、それでタライに水を満たして、部屋まで持ってきたんだな。

納得…。

…出来るはずがないだろ。