神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

俺は、ベリクリーデの額に手を当てた。

ベリクリーデは、きょとんと首を傾げていたが。

…やっぱり熱い。

暑いじゃなくて、熱い。

それに、さっきから呂律が回ってないわ、くしゃみは連発してるわ。

ふらふらしてるわ、顔が真っ赤だわ、鼻水は垂らしてるわ…。

おまけに額が熱いとなると、これはもう疑いようがない。

「…お前、風邪引いてるだろ」

「…ほぇ?」

ほぇ、じゃないんだよ。

首を傾げて誤魔化そうとするな。

これはもう、どう見ても、どう考えても風邪。

そういや昨日から、ちょいちょいくしゃみしてたっけ。

そうか…。昨日から、既に風邪の前兆が…。

あの時点で風邪薬を飲ませ、大人しくさせていれば…発熱まではしなかったかもしれないのに。

すぐに気付けなかった自分が、堪らなく不甲斐なかった。

あぁ、もう…。こんな大事時に、俺は留守にしてしまって…。

「熱があるだろ。風邪引いたんだろ?」

「…??げんきらよ?」

嘘つくんじゃねぇ。呂律回ってないじゃん。

「…キュレム、ルイーシュ…それにシュニィ。これはどういうことなんだ…?」

俺は、隣の三人に説明を求めた。

すると、ルイーシュが答えてくれた。

「どういうこと、と聞かれても…。どうやら昨晩から、体調が悪かったみたいで」

あぁ、やっぱり…。

「ベリクリーデさん、ジュリスさんが戻ってこないからって、昨夜は暗くなるまで玄関先に座って待ってたんだそうです」 

と、シュニィが教えてくれた。

…何だと?

「お前っ…そ、そんなことしてたのか…!?」

「えへへ〜」

笑って誤魔化すんじゃない。

「ジュリスさんから連絡が来た時点で、急いで連れ戻したんですが…」

「それまで、俺達がいくら部屋の中でも待つように言っても、聞かなかったんだよ」

…とのこと。

お前、この…。…馬鹿っ…。

昨日、暗くなるのも早かったし、それに日が暮れてからは肌寒かった。

それなのにベリクリーデは、俺がシュニィに連絡を入れて、シュニィがそれをベリクリーデに伝えるまで。

ずっと、玄関先に座って待ってたのか?

昨日から風邪気味だったというのに、肌寒い中外に座ってじっとしてたなんて。

そりゃ熱も出るよ。当たり前だ。

「お前…どうして、そこまでして…」

「…だって…。…じゅりしゅに、はやく会いたかったんらもん…」

「…」

…あぁ、もう。まったく…。

俺は思わず天を仰いたが、しかし、そんなことをしている暇はない。

そして、今ベリクリーデに必要なのは、お説教ではない。

「…分かったよ」

元はと言えば、夜までには戻ると言っておきながら、帰らなかった俺が悪い。

「ごめんな、遅くなって。もう帰ってきたからな」

俺は、ベリクリーデの頭にぽん、と手を置いてそう言った。

するとベリクリーデは、真っ赤な顔で、鼻水を垂らしながら、心底嬉しそうに「えへへ」と笑っていた。