神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

「し、シルナ!?どうした!?」

「…」

シルナは、必死に言葉を発そうとしていたが、声が出ないらしく。

首元に巻きつけられたネギを、身振り手振りで必死に指差した。

釣られて首元を見ると、採れたて新鮮の白ネギが、シルナの喉に食い込んでいた。

これのせいで、シルナが窒息しかかっているのだ。

すぐり、あいつ強く絞め過ぎだ…!! 

「ちょ、シルナ。大丈夫か!?しっかりしろ!生きろ!」

「…」

「畜生、硬くて外れねぇ!」

俺はシルナに駆け寄って、喉に食い込んだ白ネギを引き千切ろうとしたが。

すぐりお手製の糸でぐるぐると巻いているせいで、これがまた外れないの何のって。

どうしたら良いんだ。

このままじゃ、シルナが窒息死してしまう。…白ネギで。

こんな間抜けな死に方があるか?

「誰かっ…。誰か助けてくれ!シルナが、シルナの死因がネギになってしまう!!」

俺の、渾身の必死の叫びに。

応えてくれた者がいた。

「…何やってるの?」

「はっ!」

この声は。

開けっ放しにしていた窓に、新たな人影が。…いや。

猫影、と言った方が正しいか。

いろりの姿に『変化』した、マシュリである。

地獄に仏、とはこのこと。

「マシュリ、頼む!シルナを助けてくれ!」

「…何だか、大変なことになってるみたいだね」

マシュリは、いろりの姿のまま、しゅたっ、と部屋の中に降りてきて。

シルナの首に巻き付いたすぐりの糸を、ガジガジと噛み千切ってくれた。

俺の指では無理でも、半人間、半ケルベロスのマシュリの牙なら。

すぐりが魔法で作った強固な糸でも、噛み千切ることが出来る。

すぐりの糸をほどき、ついでにシルナの首に巻き付いていた白ネギも取り去ると。

「げほっ!げほっ、けほっ、うぇっ…」

「おぉ…。良かった、生き返った…」

シルナは、息を吹き返したように激しく咳き込んだ。

間一髪だったな。

…マシュリがいなかったら、どうなってたことか…。

「うぇ…。…猫にネギを食べさせちゃいけないんだよ」 

「あ、そうか。ごめん…」

緊急事態とはいえ、白ネギを噛み千切ってしまったマシュリは。

顔をしかめて、ぺっ、ぺっ、と唾を吐いていた。

つーかお前、猫じゃないじゃん。厳密には。マシュリじゃん。

それでもネギ、ダメなの?

って、それより今はシルナだ。

「おい、大丈夫か」

「ふぇぇぇぇ」

シルナの背中を擦ってやると。

シルナの両目に、ぶわっ、と涙の粒が浮かんだ。

…令月の激マズ薬湯を飲まされ、すぐりに白ネギで絞め殺されそうになり。

踏んだり蹴ったりだな。シルナ。