神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

「まったく、大袈裟だなー。何も変なことしないよ」

と、口を尖らせるすぐり。

そのすぐりは、何やら細長いものを持っていた。

何だあれは、と思ったが。

「それ…。…ネギ?」

「そう、ネギ」
 
…皆さん、ネギって知ってる?

お鍋に入れると美味しいよな。

湯豆腐の薬味にしても良し。

そのネギが、何故かすぐりの手に握られていた。

「お前…それ、どうしたんだ?」

「ツキナに相談してさー。園芸部の畑からもらってきた」

「あ、そう…」

自家製ネギってことか。立派に育ってんなぁ。

「これを首に巻けば、風邪なんてあっという間に治るよ」

あぁ…あるよな、そういう民間療法。

割と昔から語られる、ポピュラーな方法だけど…。

…あれって、迷信なのでは…?

しかし、すぐりは容赦なかった。

「はいはい、大人しくしてねー」

「いやぁぁぁ!くさい!ネギくさい!!」

ネギ特有の、あの鼻にツンと来る匂いが、こちらにまで漂ってきている。

ゼロ距離であの匂いを嗅がされている、シルナのダメージは如何ほどか。

「これを首に巻いて、っと…」

「うぐぇっ!」

「ん?ちょっと巻き過ぎたかな?…まぁ良いや。簡単に取れないようにしておこーっと」

「ぷぐぇぇ〜!!」

すぐりは念の為に、シルナの首に白ネギを巻いた上から、更に自分の糸でぐるぐると巻いた。

「よーし。これでおっけー」

…おっけーなのか?なぁ。

段々と、シルナの顔が真っ赤になってるような…。

「これで学院長の風邪は、あっという間に治るはずだよ」

「俺達のお陰だねー」

…何より恐ろしいことに。

これほど残酷な民間治療を施しておきなら、この二人に悪意など1ミリもない。

むしろ、善意100%の行為なのである。

そう。令月もすぐりも、シルナに早く元気になって欲しくて。

心を鬼にして、このような強引な治療を…。

…。

…やっぱり残酷過ぎないか?

「おっと。そろそろ次の授業が始まっちゃうね」

「うん。それじゃ行こうか」

これで用は済んだ、と言わんばかりに。

二人は、自分達が入ってきた寝室の窓に足をかけた。

「じゃーねー、学院長せんせー」

「お大事に」

そのまま、窓からひょいっ、と降りていった。

…。

…ちゃんと部屋のドアから出ていけよ。何で窓?

「ったく、本当にヤモリみたいな奴らだな…。…つーか、窓閉めていけよ…」

「…」

「まぁ良いか。ちょっと窓を開けて換気しておこう。シルナ、寒くないか?」

「…」

「…シルナ?」

さっきから、返事がない。

もしかして眠ってしまったのかと、ベッドを振り向くと。

さっきまで真っ赤になっていたシルナの顔が、今度は血の気が引いて、真っ青になっていた。