神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

…と、思ったけど10分後。

「…ふはっ!」

「あ、生き返った…」

白目を剥いて気絶していたシルナが、唐突に意識を取り戻した。

良かった。まだ死神に連れ去られずに済んだな。

ここまで生きてきただけのことはある。しぶとい奴だよ。

「はぁ、はぁ…。は、は、羽久がっ、わ、私にし、失礼な、こと、を」

「はいはい。大丈夫か?」

「…み、みず…羽久、お水…」

「はいはい」

かろうじて、言葉は喋れるようだな。

俺は、コップに水を汲んできてやった。

シルナはそれを、ごくごくと飲み干した。

まるで、口の中と食道を洗い流すように。

「はぁはぁ…。し、死ぬかと思った…」

「そうか…」

大変だったな。

俺でも、あの薬湯は飲みたくねぇよ。

…しかし、恐ろしいことに。

…次は、すぐりのターンだった。

「ようやく起きたねー、学院長せんせー。それじゃ次は俺の番だよ」

「えっ、な、何!?何なの!?これ以上シルナに何をしようとしてるの!?」

「大丈夫だよ。ちゃんと治してあげるからさー」

「怖い!やめてー!」

完全に、さっきの令月の薬湯のせいでトラウマになってるらしく。

シルナは、またしても毛布を被ってアルマジロのように丸まったが。

この元暗殺者二人に、そのような稚拙な手段が通じるはずもなく。

「『八千代』」

「分かった」

「あ"ぁ"ーっ!!」

令月に、あっさりと毛布を引っ剥がされていた。

…あーあ…。

「さぁ学院長せんせー。覚悟は良いよね?」

「な、何、何なの?」

「大丈夫だって。今、楽にしてあげるからさー」

「いやぁぁぁぁぁ!殺されるぅぅぅ!」

…あのさ。すぐりはこれでも、シルナの風邪を治そうとしてるんであって。

別に、命を奪おうとしてる訳じゃないからな。

だけど、すぐりが言うと、「楽にしてあげる」の言葉の意味が別の意味に聞こえる。

「羽久ぇぇぇ!助けてぇぇぇ!」

シルナは、俺に悲痛な叫びを上げて助けを求めたが。

ごめんな。俺も命が惜しい。

この元暗殺者二人を前に、抵抗や命乞いが無駄であることは、よーく知っている。

つまり、抵抗するだけ無駄。

俺やシルナに出来ることは、まな板の上の鯉になった気分で。

全てを諦め、運命に身を任せること。これだけである。

「…シルナ、お前のことは忘れないよ…」

「いやぁぁぁぁ!諦めないでぇぇぇ!」

ごめん、俺には無理。

せめてシルナ、お前の最後の勇姿を、この目で見届けてやるよ。