神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

その後、準備を済ませたナジュと天音は、引率教員変更の旨を五年生の生徒達に伝え。

全員揃って、元気に社会見学に出発した。

突然の教員変更でも、生徒達の方は、さして戸惑った様子もなかったとか。

そりゃまぁ、そうだ。

どうせ一緒に行くなら、おっさんシルナよりも、イケメンナジュの方が良いに決まってる。




…で、無事置いてけぼりにされたシルナは。

「…ひっく…ひっく…。うぇぇ…」

「…」

「…ひっく…。ずびっ、ずびびっ…。ぐじゅっ…」

「…ほら。鼻、噛めよ」
 
俺は、ベッドで丸まって泣きじゃくるシルナに、ティッシュを差し出した。

「…ばづね…」

うるうる。

「ほら、早く」

「ばづね〜っ…」

ちょ、鼻水だらけでしがみついてこようとするな。

ばづねって何だよ。

「鼻を噛めって。ほら」

「う、うん…」

シルナはティッシュを受け取り、ちーん、と鼻を噛んだ。

立て続けに、ティッシュを5枚くらい贅沢に使いながら、何度も鼻を噛んだ。

汚くてごめんな?

でも、そのお陰でようやく、ちょっとすっきりしたらしく。

「…はぁ〜…」

深々と、大きな溜め息をついた。

…さすがに、もう泣き喚くようなことはなかったが。

それでも、置いていかれたショックは大きいようで。

「…ふぇ」

半泣きだった。

「…しょうがないだろ。風邪引いたんだから」

どれだけ気をつけてたって、体調管理してたって。

風邪くらい、誰だって引く時は引くよ。

シルナだって、風邪引きたくて引いたんじゃないだろう。

それは生徒だって分かってくれるよ。

「一緒に行きたかった…。…一緒に行きたかったよぅ、羽久…」

「はいはい、分かった分かった…」

良い歳したおっさんを、子供みたいにあやさなきゃいけないなんて。

どんな罰ゲームだよ。

でも、こうでもしてやらなきゃ、シルナがぐずるんだもん。

「大丈夫だ、シルナ。あの大量のチョコレートのリュックは、ちゃんと天音とナジュが持っていってくれたから」

おやつの時間になったら、きっとあの二人が生徒達に大量のチョコを配ってくれてるよ。

みんな、亡きシルナのことを偲びながら食べてくれるはずだ。

…まぁ、まだ死んでないけども。

「そうだけど…そうだけどっ…。くしゅっ…。…一緒に食べたかった…」

「…そうか」

それは残念だったな。

治ったら、また生徒達と一緒に食べれば良いじゃん、チョコ。

いっつも食ってるんだからさ。

「こんな肝心な時に風邪を引くなんて。私の何が悪っ、」

と、シルナが言いかけたその時。

シルナの寝室の窓が、カチャッ、と開けられた。