神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

「…まぁ、そうなると僕しかいませんね」

と、ナジュ。

「…そうだな」

シルナが無理、イレースも授業がいっぱいあるから無理となると。

他に手が空いているのは、ナジュしかいない。

…え?俺?

無理だよ。シルナがこんな状態なのに、置いていけるもんか。

それに俺自身、今日は授業が詰まってるし…。

「と言っても、僕も今日、授業あるんですけどね。午後から実技授業…」

「それは俺が代わるよ…」

ナジュの授業を期待していた生徒は不満かもしれないが。

今日のところは、俺で妥協してくれ。

ごめんな。生徒達よ。

「そっか。じゃあナジュ君、一緒に行こう」

「えぇ。お任せください」

天音は、心なしか嬉しそうだった。

そりゃ、おっさんシルナよりも、親友であるナジュと一緒に引率する方が気が楽だろうからな。

そういう意味では、シルナじゃなくて良かったと言えるが、

「ちょ…ぢょっどばっでよ!」

シルナが、がらがら声で抗議を始めた。

…何だ?

「らいじょうぶだよ!よでいどぼり、わだじがいんぞづ、」

「ナジュ、心読んで。通訳」

「人使いが荒いですね…。…『大丈夫だよ!予定通り、私が引率…』」

何言ってんだ。このアホ学院長は。

「放っといて良いぞ。急いで準備してくれ」

「そうですね。天音さん、準備手伝ってくれますか」

「うん。分かった」

天音とナジュは、急いで職員室を出ていった。

…お陰で通訳がいなくなってしまったが。

「やだっ…!わだじがいぐーっ!ぜいどどっ…ふぇっくしゅ!いっじょに、ばえっくしゅ!ぢょごれーど〜っ!!はーくしゅんっ!」

くしゃみを連打しまくって、まともに喋れていないが。

何が言いたいのかは、大体分かる。

多分、予定通り自分が一緒に行くと主張してるんだろう。

シルナはこの遠足、じゃなくて社会見学。めちゃくちゃ楽しみにしてたから。

…だけど…。

「無理だ、シルナ。諦めろ。今年はナジュと天音に任せろ」

「やだ〜っ!やだやだやだ〜っ!はっくしょん!ずずずっ…。いっじょにいぐ〜っ!!」

鼻を噛め。汚い。

「お前、風邪引いてるだろ」

「ひいでないもん!」

鏡を見て言ってるか?

真っ赤な顔して。鼻垂らして。

どっからどう見ても風邪。

俺達教師は生徒と違って、来年も社会見学の機会があるんだから。

今年一回一緒に行けなかったところで、また来年行けば良いじゃん。

って俺は思うけど、シルナにとってはそうじゃないんだろうな。

今の、この学年の生徒達と一緒に社会見学に行けるのは、今日しかない。

そう思ってるからこそ、絶対に休みたくないのだろう。

その気持は分かる。

俺だって、シルナがうっきうきしながら社会見学の準備してるところ、ずっと見てた訳だから。

でもな、それはそれ。駄目なものは駄目。

このままじゃ、シルナが引率するんじゃなくて。

生徒が、シルナを引率する羽目になってしまう。

生徒にそんな役目、背負わせる訳にはいかないだろ。