神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

「…ほら、シルナ。ティッシュ」

「あ、ありあと〜、ばづね」

俺が箱ティッシュを差し出すと、シルナは一枚、二枚とティッシュを出し。

ちーん、と鼻を噛んでいた。

あぁ、もう…めちゃくちゃだよ。

俺、今「ばづね」って呼ばれたし…。誰だよ。

「ばのね、あんがぎのーがら、ぎのーのぼるがら、べっどにばいるばえがら、べんながんじだなーっで…」

「だから、何言ってるか分からないって」

一生懸命説明しようとしてるのは分かるけど、伝わらなきゃ意味がない。

そしてこういう時に、この男が役に立つ。

「ナジュ、通訳」

「やれやれ。読心魔法の乱用ですよ」

お前が言うか。

良いから、シルナが何を言おうとしてるのか通訳してくれ。

「えぇと…。『あのね、なんか昨日から、昨日の夜から、ベッドに入る前から、変な感じだなーって』」

ほう。

「いづもねるばえにだべでるいだじょこが、いづもならいぢまいはぜっだいだべるのに…」

「『いつも寝る前に食べてる板チョコが、いつもなら1枚は絶対食べるのに…』」

「ばんぶんじかだべられながっだの」

「『半分しか食べられなかったの』」

…多くね?

それ、いつもがおかしいんだよ。

「…」

見ろ。イレースがまたしても、無言で怒りを募らせている。

やめろ。これ以上我が校の女王陛下を怒らせるな。

しかし、シルナはがらがら声で話し続ける。

「ぞれで、げざおぎだら、ごえがでなぐで…。く、ぐ、ぐしゃみが、ふえっくちゅ!」

「『それで、今朝起きたら、声が出なくて…。くしゃみが、ふえっくちゅ!』」

ナジュ。くしゃみまで再現しなくて良いから。

…とはいえ、事情は分かった。

「…完全に、風邪だな」

「う、うん…。風邪だね」

保健室の先生である天音も、俺の意見に同意した。

まぁ、素人目から見ても明らかだもんな。

何処からどう見ても、風邪。

そういや数日前から、やたらとくしゃみしてたな。

あれはイレースの悪口のせいだと思っていたが…。

もしかしてあの時から、体調を崩していたんだろうか。

そうだとしたら、気づいてやれずに悪いことしたな…。

…とはいえ。

「…じゃ、シルナは今日、留守番だな」

「ふぇっ」

シルナは鼻水を垂らしながら、ぽかんとして、こちらを見つめていた。

…な、何だよその顔は?

俺、何か変なこと言ったか?

「仕方ありませんね。私が代わりに引率する、と言いたいところですが」

と、イレース。

「生憎、今日は他学年の授業がみっちりと詰まっています。授業に穴を開ける訳にはいきません」

どんな時でも、授業優先なイレース。さすがの教師魂である。

シルナが風邪を引こうと関係ない。

元々、この社会見学に同行する引率教師は、学院長であるシルナ、そして保健室の先生である天音。の二人。

だけど、シルナがこの調子だと…。…別の教師に引率してもらうしかないが…。