神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

学院長室には羽久の他、学院長のシルナ・エインリーもいた。

「ジュリス君!ようこそ!良いところに」

あぁ、うん。

それは良いんだけど。

「何だ…?この部屋、チョコくさ…」

思わず言ってしまった。

いや、俺だって失礼だとは分かってるよ。人様の部屋を突然訪ねて、あろうことか「臭い」なんて。

しかし、羽久も同感だったようで。

「ごめんな、ジュリス…。俺も度々言ってるんだけどな、こいつ…」

羽久は、じとっとシルナの方を向いたが。

シルナ・エインリーは、至福満面の評定で、チョコ臭を放つ大きなマグカップの匂いを嗅いで、

「はー、チョコの匂い。素敵!チョコの匂いは幸せの匂いだよね〜」

「…この調子だからな」

そ、そうか…。

お前も苦労してんな…。羽久・グラスフィア…。

「とんでもない匂いだろ?俺はともかく、マシュリが気分を悪くするからやめろって、いつも言ってるんだが…」

「あぁ…。そうか、あいつは鼻が良いんだっけな…」

ケルベロスが半分入ってるんだもんな。

一般人のそれを遥かに凌駕している優れた嗅覚を持っている。

人間の俺でさえ、こんなキッツい匂いなのに。

マシュリがこの匂いを嗅いだら、そりゃ気分が悪くもなるだろう。

しかし、シルナ・エインリーにとってはこの匂いが幸せの匂いらしく。

あろうことか、俺にも勧めてきた。

「ジュリス君も飲むでしょ?シルナ特製ホットチョコレート」

「え?いや俺は」

「大丈夫大丈夫、すぐ持ってくるから。お砂糖をたっぷり入れて、ミルクの代わりに生クリームを…」

重い重い。徹夜明けにはキツ過ぎる。

ただでさえ大量のチョコウエハースを食べた後で、口の中が甘ったるいのに。

マズい。長居は無用だぞ、これは。

「ちょっと待ってくれ。渡したいものがあるだけなんだ」

「へ?渡したいもの?」

「これ…。チョコウエハースなんだが」

「チョコ!?」

お、おう。

チョコと聞いて、シルナ・エインリーの目の色が変わった。

俺がチョコウエハースの入った透明なビニール袋を見せると、シルナは餌を出された犬のように飛びついてきた。

「チョコ!チョコじゃないかこれは!」

「おい、シルナ落ち着け」

相棒の羽久・グラスフィアに止められているが。

シルナの両目は、チョコウエハースを捉えて離さない。

すげー執念。

「これどうしたの?何処で調達したの!?」

「えぇと…まぁ、色んな経緯があって…」

ここで、本当のことをイチから話すのは気が引けた。

実は、ベリクリーデが都市伝説キーホルダーの食玩を山のように買ってきて、その余りだ、なんて。

ベリクリーデは良いとして、俺が赤っ恥じゃん。