神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

…あいつ、「ちょっとお散歩に」みたいな感覚で冥界に行ったな。

冥界って、そんな簡単に行ける場所じゃないはずなんだが…。

普段はただのド天然にしか思えないけど、こういうところを見ると、天使なんだなーって。

…なんて、感心してる場合かよ。

「ベリクリーデ、しっかり…」

「戻ったぞ」

「はやっ!?」

何事もなかったみたいに、また時空に亀裂を入れて、向こうから戻ってきた。

「氷を持ってきた」

クロティルダの手には、ティッシュボックスくらいの分厚い氷。

しかもその氷は、紫色だった。

アメジストみたいな。濃い紫色の氷。

「これ…どっから持ってきたんだ…?」

「冥界の氷湖から削り取ってきた」

マジ?冥界の氷湖って、紫色なのか?

恐る恐る、指先でちょっと紫氷に触ってみると。

びっくりするくらい冷たくて、そして硬かった。

「ま…まぁ、氷なら何でも良いや」

氷を適度な大きさに割って、それをタオルやハンカチで包み。

そして、それをベリクリーデの首や、脇の下などに挟み込んだ。

…これで良し。

「…ふへ〜…」

「…大丈夫か…?」

相変わらずの間抜け顔だが、さっきまでのように顔を真っ赤にして湯気を立てている…ようなことはなかった。

とはいえ、しばらくは安静だな。

「お前、こんな暑い部屋で一体何やってたんだ…?」

「ほぇ…?」

「エアコンつけろよ」

いや、俺だってさっきまで、エアコンつけずに粘ってた身だから。あんまり偉そうなこと言えないけど。

だからって、この日差しの差す暑い部屋で、窓まで閉め切ってるのはねぇわ。

あと、何で毛布まで被ってんの?

「えあこん…?」
 
首を傾げるベリクリーデ。
 
「いや、だから…冷房だって」

「…れーぼー?」

おい、マジかよ。

ベリクリーデは、文明の利器エアーコンディショナーをご存知なかった。

古代人かお前は。

しかも、クロティルダまで首を傾げて。

「えあこんって何だ?」

なんて聞いてくる始末。

お前も知らないのかよ。

この田舎者共め。いや、田舎者だってエアコンくらい知ってるっての。

成程、ベリクリーデがこの暑い部屋で耐え忍んでいたのは、そもそもエアコンの存在を知らなかったからか。

だからって、せめて窓くらい開けろよ。

「この…馬鹿共め。エアコンくらい知っとけよ」

「…ジュリスに怒られちゃった…。しょぼーん…」

「大丈夫だ、我が姫。知らないことは恥ずべきことではない。大事なのは、知ったことを忘れないことだ」

おい。良いこと言って誤魔化そうとするな。

「あのな…。エアコンっていうのは…あれだよ。ほら、涼しい風が出てるだろ?」

「ほう。冷風を送り込んでいるのか。面白いな」

「ほぇー。涼しいね〜」

…ったく。

マジでもう。下手したら命に関わるから。

エアコンくらいちゃんとつけてくれ。頼むから。な?