神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

「ベリクリーデ、ベリクリーデしっかりしろ!何やってんだお前は!」

俺はベリクリーデに駆け寄って、毛布を取り上げた。

「…ふへ〜…」

駄目だ。人語を喋っていない。

完全に、完ッ全に熱中症。

どういうことだ。この部屋、エアコン壊れてるのか…!?

とにかく、まずはベリクリーデを何とかしないと。

人…そうだ、人を呼ぼう。

「クロティルダ…。おい、クロティルダ!いるか!?お前の姫がピンチだぞ!」

「呼んだか?」

おぉ。来た。

振り向くと、そこにムカつくくらいイケメンの天使が現れた。

お前。見てたんならベリクリーデを助けろよ。

「頼む、水…。いや、ただの水じゃ駄目だ。水に塩を入れて持ってきてくれ。頼む!」

「よし、分かった」

天使をパシる俺。

引き受けるクロティルダもクロティルダだが。

しかし、今の俺はそんなことは全然気に留めなかった。

とにかく、ベリクリーデを助けなくては。

俺は急いでエアコンのスイッチを入れた。

壊れてるのかと思ったが、エアコンはちゃんと動いた。

しかし長いこと使われていなかったようで、エアコンからは生暖かい風と共に、埃っぽい、カビっぽいような匂いがした。

ちゃんと動くじゃねぇかよ。つけろよエアコン。

それから、慌ててベリクリーデに駆け寄り、抱き起こした。

「…ふぇ〜…」

くらくら、ふらふらしている。

えぇと、熱中症の応急処置は…。

俺はまず、ベリクリーデの服の胸元をはだけさせ、緩めてやった。

…え?緊急時とはいえ、女の子の胸元を触るなんて、って?

うるせぇ。優先順位ってものがあるんだよ。

それから…身体を冷やさないと。

あ、そうだ。さっきもらったチューペット。

冷たいそれを、保冷剤代わりにベリクリーデの首元、大きな血管がある場所に当ててやった。

すると。

「持ってきたぞ」

「おぉ…。ありがとう」

コップを手にしたクロティルダが、部屋に戻ってきた。

そのコップ、ベリクリーデの口元にあてがった。

「ほらベリクリーデ、これ飲め」

「ふぇ〜…」

「大丈夫か?」

「ん〜…。…ごくごく…」

お、飲んでる飲んでる。

くぴっ、くぴっ、と食塩水を飲んでいた。

「う〜…。…あちゅいよ〜…」

「…当たり前だろ…」

こんな暑い日に、エアコンもつけずに。

しかも毛布まで被ってたら、そりゃそうなる。

「あぁ…。チューペットが、あっという間にただのジュースに…」

保冷剤代わりにしていたチューペットが、あっという間に溶けてしまった。

やっぱりこれじゃ駄目だ。ちゃんと保冷剤を持ってこないと…。

「…ふむ。氷で冷やせば良いのか?」

クロティルダがそう聞いてきた。

「あ?あぁ…。熱中症だから、身体を冷やしてやらないと…」

「よし、分かった。少し待っていてくれ」

と言って。

クロティルダは、何もないはずの空間に亀裂を作った。

冥界に繋がる『門』である。

クロティルダはそこに、スッ、と入っていった。