神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

…まさか。

「こら、いろり。ここには入っちゃ駄目なんだぞ」

別の生徒が、慌てていろりを外に連れ出そうとしたが…。

いつもは素直なはずのいろりは、連れ出そうとする生徒の手をするりと逃れ。

マリアナの足元にまとわりついて、にゃーにゃーと自分の身体を擦りつけ、ぺろぺろと舐めていた。

そのいろりの行為に、マリアナはハッとした。

「いろりちゃん…。もしかして、私のこと励まそうとしてくれてるの…?」

「にゃー」

そうだよ、と言わんばかりに鳴くいろり。

「…!いろりちゃん、ありがとう…!」

マリアナは感激して、いろりをぎゅっと抱き締めた。

いろりは尻尾を振りながら、マリアナの顔をぺろぺろ。

…こいつ。

マリアナが採血に怯えていることを知って、わざわざ励ましに来たのだ。

なんて有能な猫なんだ。

お陰で、マリアナは…。

「あの…私、頑張って、採血受けます」

「…!マリアナちゃん、大丈夫なの?」

仕方ないから、彼女だけ採血を免除しようと思っていたのに。

マリアナは、自ら看護師さんの前に座った。

「大丈夫…じゃ、ないかもしれないですけど…。でも、いろりちゃんがついててくれるから…」

「にゃー」

傍にいるよ、と言わんばかりに、マリアナの腕に抱っこされて、すりすりするいろり。

これは可愛い。

「じゃ、出来るだけ早く終わらせますから」

「は、はい…お願いします」

マリアナは、採血針を持つ看護師さんを見ないようにして。

必死にそっぽを向いて、もう片方の手でいろりを抱き締めていた。

その手を、いろりは相変わらず、ぺろぺろ舐め続けていた。

マリアナはぎゅっと目を閉じて、辛そうな顔をしていたが…。

「…はい、終わりましたよ」

「あ、ありがとうございます…」

なんとか、マリアナは試練を乗り越えることが出来た。

「にゃー。にゃーにゃー」

よく頑張ったね、と褒めているかのように鳴くいろり。

これには、マリアナも感無量。

「いろりちゃん…来てくれてありがとう。いろりちゃんのお陰で、私、頑張れたよ」

「にゃー」

得意げないろりである。

…お陰で助かったよ、マシュリ。ありがとうな。