神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

びっくりして、採血部屋の中にいた全員が、窓の方を見た。

すると、そこには。

「ま、ましゅ…いや、いろり…?」

思わず、マシュリって言ってしまいそうになったが。

猫の姿に『変化』した、マシュリ…いや、いろりだった。

銀色の毛並みをしたその猫が、ひょいっ、と窓から部屋の中に入ってきた。

「え、嘘。いろりちゃん…?」

「何でここに…?」

生徒達もびっくり。

更に、採血に当たっていた看護師さんも。

「え…。猫…?」

学校に猫がいるとは思ってなかったんだろうな。当たり前だが。

同時に看護師さんは、ちょっと嫌そうに顔をしかめた。

当然である。

健康診断とはいえ、医療行為を行っている場所に、動物が入ってくるなんて。

動物が好きとか嫌いとかは関係ない。医療関係者としては、眉をひそめる状況に違いない。

その点、マシュリも分かっているはずだ。

普段マシュリは、猫の姿で学院内をうろうろしているが。

基本的に、入ってはいけないであろう場所には入らない。

食堂とか、厨房とか。図書室とか。

猫を苦手とする生徒にも近寄らないし、猫アレルギーの生徒にも近寄らない。

まぁ、それは中身がマシュリだからなんだけど…。

ましてや、健康診断の採血の現場になど、マシュリが入ってくるはずは…。

マシュリの意図を計り兼ねて、戸惑っていると。

「にゃー」

と、一声鳴いて。

マシュリ…いろりは、マリアナという女子生徒の足元にてくてく、と歩いていった。

「あ…い、いろりちゃん…」

マリアナはその場にしゃがんで、いろりを迎えた。

「にゃー。にゃーにゃー」

いろりはマリアナの足元に座って、「どうしたの?大丈夫?」と言うようにマリアナを見上げた。

…これはあざとい。

そして、思い出した。

イーニシュフェルト魔導学院のマスコット猫、いろりには、熱狂的ファンである生徒が何人もいるが。

マリアナも、そのうちの一人なのだ。

いろりのお気に入りの猫缶を買ってきてあげたり、猫じゃらしで遊んであげたりと。

ほとんど毎日のように、いろりを構っていた。

そんなマリアナに、いろりはにゃーにゃー鳴きながら、足元にすりすりしていた。

…やっぱりあざとい。

「いろりちゃん?いろりちゃん、どうしたの…?」

「にゃー」

マリアナが手を差し出すと、いろりはその手をぺろぺろと舐め始めた。

…まるで、慰め、励ますかのように。