神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

これまで毎年行われていたのは、身長と体重の測定。

それから視力検査と聴力検査。それと血圧測定。

主にはこれくらいだった。

あとは、数年に一回心電図検査も。

血液検査は、入学時に受けてもらうことになっていたが。

それは生徒のみであって、教員には関係なかった。

しかし、今年からは、教員含め、全校生徒に血液検査が実施されるらしい。

「…で、それに何の問題があるんだ?」

良いじゃん。検査する項目が増えたら、もっとよく自分の身体を調べてもらえるぞ。

悪い病気とか、早期に見つけてもらえるかもしれない。

…しかし、シルナは。

「問題だよ!だって、採血なんだよ?」

「…何が嫌なんだ?」

「だって、針、刺されたら痛いでしょ?」

「…」

…マジで?

良い歳したおっさんが、採血が怖くて半泣きになってんの?

まだ子供である生徒ならともかく。こんなおっさんが。

「…ふーん。心配して損した」

「ちょ、待って羽久!」

「採血が怖いよー」なんて言うおっさんには、もう構ってられないとばかりに。

さっさと学院長室を退室しようとしたら、再びシルナに止められた。

腕に、がっちりと抱きついて。

「ちょ、離れろよ」

「怖いよー羽久!採血なんてやだ!生徒達だってきっと嫌なはずだよ!」

知るかよ、と言いたいところだが。

でもまぁ、気持ちが分からんことはない。

俺だって、好き好んで血を採られたくはないからな。

注射って、駄目な人はとことん駄目らしい。

身体に針が刺さることに、本能的に、強い恐怖を感じてしまうらしい。

あとは、ほら、よく言う先端恐怖症、とか。

そういう人にとっては、採血は憂鬱イベントだよな。

生徒の中にも、そういう体質の持ち主がいるかもしれない。

そういう生徒に関しては、お医者さんや看護師さんに相談出来る体制を整えておかないとな。

しかし、俺が配慮するのは生徒達のことだけだ。

シルナは知らん。

「可哀想に、みんな血を採られて可哀想に。終わった後のご褒美に、みんなにチョコ配ってあげよう」

「…」

「あぁ〜!怖いよ〜!」

頭を抱えるシルナ。

…俺、もうこいつ放っておいて良いかな?

と、思ったが。

「羽久ぇ〜…」

超なっさけない声で、俺に泣きついてくる。

知るか!と突き放したいところだが。

ここで下手に塩対応して、明日、看護師さんの前で恐怖のあまり、ギャーギャー騒がれでもしたら。

イーニシュフェルト魔導学院、一生の恥。

非常に不本意ではあるものの、一応、慰めておいてやった方が良いだろう。

「…大丈夫だよ、すぐ終わるって。きっと痛くないように、丁寧に採血してくれるはずだから」

「そうかなぁ…?」

「そうだって。明日の今頃には、けろっとした顔でチョコケーキを食べてるはずだよ」

何の根拠もない、適当な慰めではあったが。

それでも、シルナはちょっと元気が出たようで。

「そうだよね…。そうだよね!よし…明日、検査が終わった後に食べるケーキを買って来よーっと」

検査後のケーキを楽しみに、るんるんとスイーツショップに買い物に出掛けた。

…世話の焼ける奴だよ。