神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

しかし。

ベリーシュは、ベリクリーデみたいに、直感で物を言っているのではなかった。

ベリーシュなりに、そう思う根拠があった。

「もし本当に、ベリクリーデのことを利用しようとしてるのだとしたら…。私の存在に気づいた時点で、私のことを消そうとするんじゃないかな」

「…何?」

ベリーシュのことを?消す?

「同じ身体の中に住んでいるとはいえ、私はベリクリーデみたいに、素直に人を信じるタイプじゃないから」

卑下するなよ、ベリーシュ。それが普通なんだ。

ベリクリーデが他人をホイホイ信用し過ぎなんだよ。

「クロティルダにとって、私は扱いにくい…ベリクリーデの異物でしかない。私の存在を容認するとは思えない」

「それは…」

「だけど彼は、私の存在に気づいていながら、何も言わなかった。敵意すら向けなかった。…さすがの私も、自分に敵意を向けられてたら気づくよ」

「…」

クロティルダは、ベリーシュに敵意を向けなかった。

ベリクリーデの中に別人格がいると気づいていながら、それを容認していた…。

それはつまり、ベリクリーデのことも、ベリーシュのことも、傷つけるつもりはない。

…その証拠じゃないのか?

「…」

…あぶねぇ。

危うく、あいつを信用しそうになるところだった。

言っとくが、俺はそこまで単純じゃないからな。

「…安心するのは早いぞ。そう思わせといて…って可能性もあるんだ」

「それは分かってる。だから、私も警戒はしてる」

よし、それで良い。

さすがベリーシュ。頼りになる。

「問題は、ベリクリーデが奴を信用しきってることだな…」

一緒に冥界にまで行ってきたんだろ?…遊びに。

ったく、俺が目を離してる隙に…。

俺が傍に居たら、絶対あんな奴、ベリクリーデに近づけなかったものを…。

「うん…。どうも、彼とベリクリーデは、昔…」

「…昔?」

「会ったことがあるみたいなんだ。私には記憶がないけど…」

「…」

会ったことがある…。旧知の仲…?

だからこそ、ベリクリーデがあんなに心を許している…。

…でも、それはいつのことだ?

「…そういや、あいつ…ベリクリーデのことを、ベルーシャって呼んだな」

「うん。私も聞いた」

ベルーシャ…ベルーシャ…。

…誰だよ?

ベリクリーデの…昔の名前…?

「…ベリクリーデ本人は?覚えてるのか?」

「分からない…。はっきりとは覚えてないと思う。でも、ベリクリーデの中に、記憶の断片が…」

記憶の断片…。

「何でか分からないけどね、私も彼を見た時に、何だか懐かしいなって思ったんだ」

「…お前にも、奴の記憶が?」

「はっきりと覚えてる訳じゃない。ただ、そんな気がしただけかもしれない…。だけど、懐かしくて…。…ううん、懐かしさだけじゃない…」

「…」

「懐かしさと…温かさと…それから、同時に胸の痛みを感じた…。そんな、不思議な感じ…」

ベリーシュは言葉に迷いながらも、何とか俺に説明しようと頑張っていた。

だが、ベリーシュ自身にも、はっきりとは分からないようだった。

「…ごめん、上手く言えないや。こんな言い方じゃ、余計混乱するだけだよね」

「いや…。お前も分かりにくいことを、教えてくれてありがとう」

本当に、感謝してるよ。

ベリクリーデに聞いても、全然要領を得なかったからな。

ベリーシュの説明で、全部は分からないけど、でも分かったこともたくさんある。