神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

俺はもう無理だ。脳のキャパを超えてしまった。

…こうなったら。

「…ベリーシュ。おい、ベリーシュ!」

俺は、ベリクリーデの中の「もう一人」を呼んだ。

もう、ベリクリーデじゃ埒が明かない。

もっと話の分かる奴を呼ぶ。

最初からこうすれば良かった。

「聞こえてるか?頼む、出てきてくれ!ベリーシュ…!」

「…」

ベリクリーデはぽやんとした表情で、不思議そうに俺を見つめていたが。

一瞬、意識を失ったように、身体から力が抜け。

そして、次の瞬間には、ベリクリーデの表情が変わっていた。

さっきみたいな、ぽやんとした間抜けヅラじゃなくて。

キリッとした、大人の女性の顔に。

「…ジュリス」

「…お前、ベリーシュか?」

「うん、私」

…良かった。

まともに話の通じる奴がいた。

「良かった…。ベリーシュ、お前が消えた訳じゃなかったんだな…」

「そうだね。私は消えてないよ」

凄いな。

見た目はベリクリーデと同じなのに、中身が違うだけで、こうも別人になるとは。

今の俺にとっては、さながら救世主なんだが?

「聞きたいことがあるんだ」

「分かってるよ。…クロティルダのことでしょう?」

「…お前も知ってるのか?あいつ…」

ベリクリーデのことを、姫だとか何とか言ってたが。

「私はベリクリーデと同じものを見ているから、ベリクリーデが彼と一緒に冥界に行ったことは知ってるよ」

「…何やってたんだ?冥界で…」

「さっきベリクリーデが言ってた通り…。貝殻とか、木の実とか拾ったり…遊びに行ってただけだよ」

気軽に、「遊びに行ってた」とか言うけどさ。

冥界って、そんな遊園地感覚で行くところじゃねーから。

もっと命懸けで行くところだからな。

何事もなく戻ってこられたから良かったようなものの、もし何かあったら今頃…。

という、俺の複雑な表情から察したのか、ベリーシュは、

「大丈夫だよ。危険なことは何もなかったから」

と、教えてくれた。

「そうは言うけどな…」

「それに、そういう危険なものからは、全部クロティルダが守ってくれた」

「…」

「彼、目的は分からないけど、ベリクリーデを守ろうとしてくれてることは確かみたいだね」

危険な目に遭わせるつもりはないと。

…でも、だからって信用出来る訳じゃないからな。

疑うに決まってるだろ。ましてや、相手は人間でさえないんだから。

「…あの天使、お前のこと気づいてるのか?」

「何も言わなかったけど、でも気づいてると思う」

…あ、そう。 

あの天使…ベリクリーデの中にベリーシュの存在があることを知りながら、何も口出ししなかったのか?

それはそれで…不気味だな。何考えてるのか分からない。